研究課題
象牙質や骨といった硬組織細胞外基質には、インテグリン結合配列RGD motif (アルギニン-グリシン-アスパラギン酸: Arg-Gly-Asp) を持つタンパク質が存在し、歯髄、象牙芽、骨芽細胞膜上のインテグリン受容体を介し、細胞接着、増殖、遊走、分化等を誘導し、組織の創傷治癒・再生に寄与している。これまでの研究から、我々は歯髄・象牙質細胞外基質タンパクであるDentin phosphophoryn (DPP) が、そのRGD motif近傍で切断を受けると、DPPによる細胞刺激活性が大きく上昇することを見出した。そこで本研究の本年度計画では、1. この切断を担うプロテアーゼの同定、2. 同定したプロテアーゼがDPP以外の細胞外基質中のRGD motif近傍を切断し得るかを明らかにすることを目的としていた。1.切断を担うプロテアーゼの同定 まずペプチドデーターベースMEROPS による候補プロテアーゼの探索を行った。先行研究においてDPPのRGDはその3`側に存在するAla-Ser bondによりインテグリン受容体活性化能が抑制されていることが明らかとなっていたため、Ala-Ser bondの切断が過去に報告されたことがあるプロテアーゼを探索した。MEROPSによる検索で約70種類の候補プロテアーゼが同定された。その中で、歯髄組織などの結合組織に存在が報告されているプロテアーゼに着目すると、ADAMs (a disintegrin and metalloprotease) に属するADAM-8, 9, 10, 19が候補として同定された。これらプロテアーゼがDPPのAla-Ser bondを切断しうるかを検討するためには活性を持つ組み換えタンパク質が必要であるため、DPPに用いた組み換えタンパク質作製と同様の方法でこれらADAMsタンパク質を、哺乳類細胞を用いて作製することとした。現在、ADAMs組み換えタンパク質作製のための発現ベクター並びに組み換えタンパク質発現細胞への遺伝子導入を行い、組み換えタンパク質発現細胞上清より組み換えタンパク質の精製を行っている。
3: やや遅れている
DPPを用いてRGD motif近傍切断プロテアーゼの同定とそれに続く同定したプロテアーゼの組み換えタンパク質作製と活性測定までの平成26年度の達成目標としていた。候補プロテアーゼの同定には至ったが、現在これらプロテアーゼの組み換えタンパク質を作製している段階であり、同定プロテアーゼの活性測定に到達できていないため。
哺乳類細胞組み換えタンパク質作製システムを用いて組み換えプロテアーゼを作製する。続いて、現在すでに実験に供している組み換えDPPタンパクと反応させ、DPP切断の有無をSDS-PAGEにより解析する。新規に同定したプロテアーゼがDPP以外の細胞外基質タンパク質中のRGD motif近傍を切断し得るかを、歯髄に高発現するDMP-1, BSP, OPN及びRGD motif依存性のインテグリンシグナルが広く研究されているFibronectinとVitronectinタンパク質を用いて検討する。 DMP-1及びBSP組み換えタンパク質は、この研究計画で用いるDPP(すでにこれまでの研究で作製済み)や新規同定プロテアーゼと同様に293EBNAcell/Pceppur vectorで作製する。これらタンパク質を新規プロテアーゼと反応させ、その開裂の有無・程度をSDS-PAGE上でクマシーブルーまたはステインズオール染色で検討する。次に、新規同定プロテアーゼが歯髄細胞の接着、増殖、分化、遊走に及ぼす影響の検討を行う。将来的な臨床応用を想定し、この同定プロテアーゼ投与が歯髄細胞に与える影響を検討する。歯髄細胞はこれまで当研究室で樹立した複数の細胞ラインを使用する。これら細胞活性に与える影響をプロテアーゼ投与有無で比較する。最後に、ラットの上顎第一及び第二臼歯に実験的露髄面を作製し直接覆髄材としての効果の検討を行う。
平成26年度に完了する予定であった研究計画②が平成27年度に継続となったため。
本年度は使用予定額の大半を組み換えタンパク質作製に関わる費用等、分子生物学試薬の購入に充てる予定である。
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