機能的近赤外分光法(fNIRS)を用い、実験的痛み刺激を歯種を変えて歯肉に負荷した際の前頭前野の血流動態を評価した。痛み刺激として、ガッタパーチャポイントを歯肉溝に挿入する1分間のプロービングを行い、健常被験者を無作為に2群(上顎右側中切歯にプロービングを行う群、上顎右側側切歯にプロービングを行う群)に分けた。データの分析は、2群ともに、プロービング直前の安静時およびプロービング時のそれぞれ1分間から得られたoxy-Hbの平均値(oxy-Hb値)を、チャンネル(前頭前野領域の22チャンネルを対象)ごとに算出し、プロービング時のoxy-Hb量から安静時のoxy-Hb量を減じ、oxy-Hb変化量を算出した。その結果、プロービングを、右側中切歯および側切歯のどちらに行った場合にも、全てのチャンネルのoxy-Hb量が減少した。口腔内に実験的痛み刺激を与えたとき、前頭前野のOxy-Hb値は減少することが示され、前頭前野は、痛みの認知に関係していることが示唆された。 また、多機能心電計を用いて、fNIRSでの実験同様、実験的痛み刺激としてプロービングを行い、その際の心電図を連続的に計測した。臨床の場での応用を見据え、心電図電極の装着部位の違い(胸部と腹部に装着、または手足に装着)が測定値に及ぼす影響を検討した。データは、第Ⅲ誘導から導出された心電図原波形のR波を、ウェーブレット解析し、低周波成分を抽出、安静時およびプロービング時における低周波成分のパワースペクトル曲線下面積(AUC)を比較した。その結果、心電図電極を手足に装着した場合でも、胸部と腹部に装着した時と同様、痛みを数値化できることが明らかになった。また、安静時とプロービング時のAUCを比較したところ、有意差を認め、手足から導出した心電図電位変動をウェーブレット解析する本方法は、痛みを客観的に評価できることが示唆された。
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