本研究は頭頸部癌患者における栄養アセスメントを手術前から手術後の顎顔面補綴装置装着時へ経過を追って、客観的機能評価と主観的評価を併用し総合的に評価することを試みるものである。本学歯学部顎義歯外来を受診した頭頸部がん患者を対象に手術前、入院中の暫間補綴装置装着時、退院後の暫間補綴装置装着時、最終顎義歯装着時の各時点における栄養アセスメントを行った。 本研究により周術期における患者の栄養状態の程度や各段階における顎義歯装着による栄養評価を知ることができた。その中で頭頸部腫瘍への治療を受けている患者の栄養状態をMini Nutritional Assessment-Short Form(MNA-SF)を用いて明らかにし、頭頸部腫瘍患者の栄養状態に影響を及ぼす因子を検討行うことが可能であった。被験者は東京医科歯科大学歯学部附属病院顎義歯外来を訪れた患者のうち、46名(平均年齢74.7歳)を対象とした。顎義歯治療のために診察を受けた頭頸部腫瘍患者の約半数(45.6%)は、低栄養(4.3%)または低栄養の危険性(41.3%)があった。さらにステップワイズ法による重回帰分析を用いて、MNA-SFスコアに影響を及ぼす予測因子を同定した。 独立変数として、年齢、性別、顎義歯の使用経験、残存歯数、上下顎別切除部位、頸部郭清術の有無、治療方法を用いた。結果、対象となった患者の約半数に低栄養の危険性があることがわかった。MNA-SFスコアの回帰式は、顎義歯の使用経験と頸部郭清術の有無の2つの独立変数を用いることで説明された。顎義歯をより長く使用することは、栄養状態の改善に関与し、頸部郭清術の既往は栄養状態を低下させる可能性があることが示唆された。
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