近年の研究により,無歯顎高齢者の栄養素摂取状態改善には,全部床義歯新製に加えて栄養士による食事指導を行うことの必要性が明らかになっている. しかし,すべての無歯顎患者に対して栄養士が食事指導を行うことは,歯科臨床の中では困難ある.そこで我々は,歯科医師も応用可能なパンフレットを用いた簡便な食事指導の効果を検討することを目的に無作為化比較臨床試験を行った. 参加者を無作為に義歯新製+食事指導群と義歯新製群の2群に割り付け,すべての参加者に対して通常の全部床義歯を製作し,さらに,義歯新製+食事指導群には,『高齢者向け食事バランスガイド』 (農林水産省発行)を用いた指導,また義歯新製群には.ダミー指導として義歯のケアに関する指導を行った.指導時期は,試適および新義歯装着時の計2回とした.アウトカムは,簡易型自記式食事歴質問票(BDHQ)から得られた栄養素,食品摂取量と血液検査から得られた抗酸化能として,サンプルサイズは60名で,ドロップアウトを考慮して,全部床義歯新製が必要な上下無歯顎者70名を本研究の参加者とした.研究終了までに8名がドロップアウトとなり,本研究全ての過程を終了した62名の結果を解析した. 義歯新製群と比較して義歯新製+食事指導群のタンパク質摂取量が有意に多かった.その他,ミネラル類,ビタミン類の摂取量も同様に義歯新製+食事指導群が有意に多かった.また,義歯新製+食事指導群は,肉類,油脂類,調味料の摂取量が有意に多かった.また,抗酸化能については有為な差はみとめれなかった. 本研究では,無歯顎高齢者の栄養素摂取状態を改善するためには,全部床義歯新製により咀嚼能力を改善するのみでなく,食事指導を行うことによる食習慣の変容が重要であり,栄養士による食事指導だけでなく,歯科医師による簡便な食事指導も食習慣の変容に有効な手法であると明らかとなった.
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