研究課題
【研究の目的】咀嚼・嚥下障害を持つ脳血管障害患者の姿勢と咀嚼嚥下様相を,モーションキャプチャなどを用いて多角的に分析し,最終的には舌圧などの簡単な計測から,各患者に最適な食事を行いやすい姿勢を得る予測式の確立を目指す.【実施内容】健常有歯顎である男性10名(平均年齢26.4歳)を対象とし,体幹傾斜角は80°(座位)と30°,頸部屈曲角は0°と60°を組み合わせた4姿勢を姿勢条件として,十分軟化したガム咀嚼を指示した.運動の測定には,光学式3次元動作計測装置VICON(Vicon Motion Systems Ltd)を用いた.上顎基準点は左右外耳孔上縁,左右鼻翼下縁の4点とし,分析点は,オトガイ(Po),胸骨上切痕(SC)下顎切歯運動の代表点Mとした.体幹傾斜や頚部屈曲による,上顎基準平面(カンペル平面)に対するM点の咀嚼運動様相と,体幹とオトガイ間距離の変化について解析を行った.体幹傾斜角度によらず,頸部が屈曲すると,Po-Sc間距離が有意に短縮した.咀嚼運動の開口量と,垂直的,前後的な幅は姿勢条件による変化がないが,咀嚼運動の左右的な幅は頚部屈曲60°の条件では0°と比較し,幅が狭くなる傾向が認められた.これらは,頸部屈曲60°時もPo-Sc間距離が30mm程度で,咀嚼は開口量10~15mm程度の運度であることから,頸部屈曲が開口量に与える影響は少なかったと考えられる.頸部を前屈すると,若年健常者では,咀嚼ストロークの左右幅の減少が,臼磨運動の抑制を反映している場合,咀嚼効率にも影響する可能性が考えられる.これの結果は,今後,咀嚼が行いやすい姿勢(体幹傾斜角度,頚部屈曲)を考える際の参考となり,その臨床的な意義は大きい.さらに,今後,姿勢の変化が咀嚼能率に与える影響も調べたいことから,義歯装着者の咀嚼能率を客観的に検索する方法について検討中である.
3: やや遅れている
今年度は,若年健常被験者の測定条件を決定する予備実験に時間がかかり,対象被験者を若年健常者から前期高齢者,さらには咀嚼・嚥下障害を持つ脳血管障害患者へと拡大することができなかった.具体的には,昨年度,4名を対象に行った予備実験から,皮膚上に設けたオトガイの点を下顎の動きの代表点とした場合,体幹傾斜90°では30°と比較して移動距離が大きくなる者が認められた.しかし,皮膚上の点は測定精度が十分とはいえず,下顎の代表点をオトガイ上の皮膚点から下顎切歯点に取り付けた標点へと変更した.また,頭部中間位の定義があいまいだったため,頚部屈曲角度を0°と60°,体幹傾斜は30°と90°のこれらを組み合わせた4姿勢に再設定した.さらに,筋活動記録に無線の筋電計の使用を試みたが,頚部屈曲した際に,顎下部に設置した電極が大きく体幹に接触することから,有線の筋電計に戻すなど,これらの設定についても時間を要した.
現在,被験者の運動条件が咀嚼(ガム咀嚼)に限定されているため,すでに測定済みの嚥下運動を含めた咀嚼嚥下運動の解析を進める.さらに,現在測定対象が顎運動と筋活動のみであることから,当初の目的であった予測式の確立を目指すため,今後,口唇閉鎖力や舌圧などを追加する.さらに,対象者を若年健常者から,有歯顎の前期高齢者へと拡大する.来年度は最終年度のため,現在得られている結果をまとめて投稿する.
測定装置の移動を28年度初旬に控えており,大型の物品を購入することができなかった.
測定装置移動後に,大型の物品を購入する.
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (2件)
Journal of Prosthodontic Research
巻: 未定 ページ: 1-8
10.1016/j.jpor.2015.12.008
巻: 59 ページ: 144-151
10.1016/j.jpor.2015.01.004
日補綴会誌
巻: 7 ページ: 154-160