研究課題/領域番号 |
26861630
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
真柄 仁 新潟大学, 医歯学総合病院, 助教 (90452060)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 摂食嚥下障害 / 神経可塑性変化 / 感覚刺激 |
研究実績の概要 |
過去の報告では,嚥下障害患者への持続的な咽頭粘膜への電気刺激によって,大脳皮質の咽頭領域への可塑性変化をもたらすことが期待されている.本研究は,ヒトを対象にこの咽頭粘膜への電気刺激が,上位脳を含む嚥下関連の末梢・中枢に対して実際の嚥下機能を如何に変化させるかという点と,その経日的な刺激効果について検証することを目的としている. 健常被験者7名を対象とした.嚥下機能評価は,反復唾液嚥下テストと嚥下反応時間とした.前者は随意性嚥下(大脳皮質)の指標として,30秒間の随意嚥下の回数をカウントしたものであり,後者は反射性嚥下(脳幹,嚥下中枢)の指標として0.1 ml/secの流速にて咽頭内に注入した蒸留水滴下に対して嚥下反射を誘発するまでの潜時を計測したものである.電気刺激前,および10分の刺激直後~10分毎に60分後まで上記の嚥下機能評価を行った. 結果,反復唾液嚥下テストの嚥下回数は,咽頭電気刺激後に徐々に増加する傾向を認めた.一方,嚥下反応時間の刺激後の変化は認められなかった.電気刺激を行わなかった2名は反復唾液嚥下テストの嚥下回数,および嚥下反応時間の変化は認めなかった.また,5日間の刺激を継続したところ,嚥下反応時間は著変しなかったが,反復唾液嚥下テストにおける嚥下回数は,経日的にも増加する傾向を示した.このような傾向は2人の刺激無群では認められなかった. 本研究の結果は,10分間の電気刺激が刺激後60分を経過した際にも随意性嚥下回数を増加させる効果があることを示唆しており,これは,過去に示されている咽頭電気刺激後の大脳皮質可塑性変化との関連があると考えられた.一方で,反射性嚥下の指標である嚥下反応時間には顕著な変化を示さなかったことは,嚥下中枢には長期効果をもたらさなかったと考えられた.また5日間の連続刺激についても,経日的に随意性嚥下回数を増加させる可能性を示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度の目標である,健常若年者を象とした咽頭電気刺激の効果についての検証は,当初の研究計画,目標を概ね達成できていると考えられる. 結果として,咽頭電気刺激は,嚥下機能を担う神経・筋機構に対し,特に大脳皮質を中心として活動性を上昇させたと考えられる嚥下機能の変化が認められている.
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度までに得られた,咽頭電気刺激により随意性嚥下の回数が増加するという結果より,大脳皮質中心と考えられる神経可塑性変化が考えられた.しかし,これは過去の研究結果などから推察できるものであり,大脳皮質の変化を実際にとらえたものではない.また嚥下運動に関して,嚥下回数のみならず,嚥下運動そのものの動態を評価する必要があると考えられた.
そこで平成27年度以降は,咽頭電気刺激後の神経・筋機構の評価として,一つは大脳皮質の活動性変化に注目する.具体的な方法として,経頭蓋磁気刺激による運動誘発電位を用いた評価方法を合わせて行うことにより,咽頭電気刺激後の皮質活動性変化の定量評価と,随意嚥下回数の関係性に注目する. また,嚥下動態の評価として,嚥下造影検査を用いた舌骨運動,喉頭挙上量の定量的評価,および咽頭収縮圧などの評価を行うことで,咽頭電気刺激が末梢の筋機構に与える影響も合わせて評価することを新たな目標とする.以上の点から,嚥下運動に関わる大脳皮質を中心とした神経の可塑性変化と,実際の機能変化に関しての考察が可能となり,本研究の最終目標である咽頭電気刺激がもたらす神経・筋機構の変化の解明を目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費に関して,研究施設の設備や,備蓄してある消耗品を有効利用することができ,購入費として予定していた予算の使用を大幅に削減できた.
また,国内学会発表旅費として見積もりしていた費用が予定額を下回った点,また,ボランティアへの謝礼として予定していた謝金に関しては,学内ボランティアを中心とした健常若年者については必要とはならなかった.
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次年度使用額の使用計画 |
物品費としては,運動誘発電位評価のための経頭蓋磁気刺激に必要な物品,消耗品等を購入する予定である.また,謝金は健常高齢者ボランティアへの謝礼は人材センターを通じて既定のを支払う予定となっている.
また,得られた成果は10月にスペインのバルセロナで行われるEuropian Sosiety of Swalloing Dysorderでの学会発表,意見交換を予定しており,その旅費に充てる予定である.
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