顎顔面骨に、癌や腫瘍の手術侵襲、外傷、先天性形態異常や歯周病疾患等で骨欠損を生じた場合、自家骨移植が必要となる。しかし、自家骨移植では、採取できる骨量には限界がある。また、人工骨には露出・感染の危険性があり、他家骨移植は倫理上の問題があり本邦では使用し難い。このため、再生医療技術を用いて大量の骨を再生させて用いることが期待され、多くの研究がなされてきた。これまで、骨再生においては骨髄由来あるいは脂肪由来の間葉系幹細胞が主に用いられてきた。間葉系幹細胞は骨髄内や脂肪内に存在し、骨や軟骨、脂肪などに分化し得る多分化能を有する組織幹細胞である。しかし、間葉系幹細胞はその実態が未だに不明であり、骨髄間葉系幹細胞では骨髄細胞のうち単核球成分を分離して培養ディッシュに接着させるが、継代培養によって多分化能を急速に消失する。また、脂肪由来間葉系幹細胞では骨の作出効率が低く、骨形成量には限界があるのが現状である。一方、軟骨再生医療は、再生医療の中でも最も進んだ領域であり、自家由来培養軟骨細胞を利用した臨床応用もなされている。こうした再生軟骨において、培養や移植条件により、石灰化あるいは骨化が引き起こされることが報告されてきた。また、申請者らも、ラットや家兎の耳介あるいは肋軟骨の軟骨膜よりの軟骨再生において、移植条件の血行状態を変化させることにより、骨化が誘導されることを観察している。このように軟骨が骨化する現象は、軟骨形成目的としては望ましくないものの、軟骨細胞が骨形成に傾く分化可塑性の分子メカニズムを明らかにすることができれば、大量に増殖培養が可能な軟骨細胞を、骨再生の細胞源に利用できるのではないかと申請者らは着想した 本研究の目的は、継代培養に伴う多分化能を消失する間葉系幹細胞から脱却し、大量に入手できる培養軟骨細胞を骨再生医療の細胞源として活用できるような技術を開発しようとした。
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