研究課題
歯周病は我が国の成人の80%が罹患しているといわれ、歯周病の進行に伴う歯槽骨の吸収は、歯牙を喪失する最も主要な原因となっている。患者由来の骨芽細胞を、歯槽骨の吸収部位に移植すれば、歯牙の喪失を予防し、患者のQOLとADLを著明に改善できる可能性がある。現在自己骨芽細胞を作出する方法としては、骨髄由来間葉系幹細胞から誘導する方法があり、外傷や骨肉腫切除後の骨欠損に対してはすでに臨床応用されているが、細胞採取に伴って大きな侵襲があること、得られる細胞の数が不十分な例があるなどの問題がある。我々は最近、ヒト体細胞にRunx2、Osterix、Oct4、L-mycの4遺伝子を導入すれば、骨芽細胞を直接誘導できること(ダイレクト・リプログラミング)を見出した。しかしながら現状では、レトロウイルス・ベクターを用いて遺伝子を導入しているので、導入遺伝子が染色体に組み込まれた骨芽細胞が得られる。そこで染色体への遺伝子の組み込みがない骨芽細胞の作出方法が望まれる。そこで本研究では、レトロウイルス・ベクターに換わる方法を用いて、安全性の高い機能的なヒト骨芽細胞を線維芽細胞から直接誘導する技術を開発することを目的とし、研究を行った。その結果、ヒト体細胞にOsterix、Oct4、L-mycの3遺伝子を組み込んだプラスミド・ベクターを導入すると、アルカリフォスファターゼ陽性で骨芽細胞関連遺伝子群を発現し、骨基質を産生する骨芽細胞が誘導されることを見出した(Yamamoto 他, 2016)。この細胞の染色体には、外来遺伝子は組み込まれていなかった。またこの細胞をマウスに接種すると、移植部位に石灰化基質が認められ、その周囲にヒトRunx2陽性細胞を認めた。移植後長期間観察しても、腫瘍の形成は見られなかった。本研究成果は、歯槽骨吸収に対する有効で安全な新しい再生医療をもたらす可能性が期待できる。
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