現在広く行われている歯科領域におけるインプラント療法は審美的にも機能的にも優れているが、一方で細菌感染を放置すると炎症が顎骨まで蔓延した状態(インプラント周囲炎)となることが近年報告されるようになった。天然歯とインプラントとの大きな違いは歯根膜組織の有無である。天然歯は炎症が起きても歯根膜組織に含まれる豊富な血管網より炎症細胞が誘導され、炎症を抑える作用が見込めるが、インプラント周囲ではそれが起こらない。よって、歯根膜付着型インプラントを開発することを最終目標として研究を行っている。このようなインプラントが完成すれば患者のQOL向上のみならず医療費削減にも効果がみられる。 これまでに接着性の良い歯根膜細胞シートを作製し、表面処理したチタンから成るインプラント体に付着させることに成功し、ラット大腿骨への移植を経て、イヌ顎骨欠損部へのインプラント移植モデルの確立および歯根膜細胞シートをヒト臨床応用可能なサイズのチタンへ安定して貼付させる方法を確立した。組織標本を観察すると、チタン上に歯根膜用組織が走行していることが確認できた。 そこで、本年度においてはイヌ顎骨モデルへ歯根膜細胞シート付着インプラントを移植術による歯周組織再生について再現性を確認し、機能的評価を行うべくイヌモデルを用いた検討を繰り返し行った。移植後12週で組織標本を作製したところ、一部ではインプラント上に線維性組織の形成は認められたが、衛生管理不足の影響で多くのインプラント周囲に炎症が起こり本年度行った2頭の検討では歯周組織再生を確認することはできなかった。 引き続き検討を続け、チタン上での歯周組織形成を再度確認し、今後は新生歯根膜組織の機能性については従来法のインプラントとは異なる、新しい評価方法を考える必要がある。
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