研究課題/領域番号 |
26861696
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
吉川 和人 北海道大学, 大学病院, 助教 (00637267)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | p53 / 口腔がん / 浸潤 / 転移 / 優勢阻害性変異 / バイオマーカー / 個別化医療 |
研究実績の概要 |
ヒト口腔扁平上皮がん細胞株5系(SAS、Ca9-22、HSC-2、HSC-3、HSC-4)のTP53遺伝子の変異を酵母p53機能アッセイで同定した。その結果、SASはE336X(recessive) 、Ca9-22はR248W(DN)、HSC-2は225 5b ins(recessive)、HSC-3は360 4b ins(recessive)およびHSC-4はR248Q(DN)の変異を有していることがわかった。 p53の標的遺伝子に対するプロモーター活性を利用したレポーターアッセイの結果から、Recessive変異をもつSAS細胞は、p53を欠失した細胞と同様に扱えると判断した。そこで、このSAS細胞にp53変異体R248QあるいはR248Wを強制発現させ、腫瘍生物学的な性状について調べた。その結果、R248Qを発現させたSAS細胞(SAS-R248Q)は、SAS親株細胞やSAS-R248W細胞に比べ有意に浸潤能が高く、ならびにR248Q強制発現による浸潤能の増強がフィブロネクチンなどの細胞外マトリックス成分に対する接着能、運動能の増強に起因していることがわかった。 一方、変異TP53遺伝子発現を阻害することを目的にTP53mRNAを標的としたshort hairpin RNA(shRNA)発現ベクターを作製した。このベクターをCa9-22細胞にトランスフェクションし、TP53shRNA発現細胞をGFPを指標にFACSで選別・回収した(Ca9-22-shTP53)。その細胞から蛋白を抽出してWestern blot法でp53蛋白の発現を解析したところ、p53蛋白の発現阻害が確認されなかった。Ca9-22細胞では、shRNAがsiRNAにプロセッシングされる過程に障害がある可能性が考えられ、shRNAでなく直接siRNAを細胞内に導入する戦略の優位性が示唆された
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
優性阻害性変異TP53を強制的に発現させたSAS細胞株を樹立することができた。現在はDN変異p53による遺伝子発現プロファイルの変化をDNAマイクロアレイおよびマイクロRNA(miRNA)のマイクロアレイによるトランスクリプトーム解析を行い、各DN変異p53に特徴的な遺伝子発現ネットワークを見つけている最中である。
|
今後の研究の推進方策 |
R248QおよびR248W以外の優性阻害性変異TP53強制発現細胞株の樹立に努める。ただし、酵母・大腸菌シャトルベクターpSS16にクローニングしていた変異TP53遺伝子を哺乳動物細胞発現ベクターに組み換える方法だけでなく、すでに得られた野生型TP53発現ベクターを鋳型としたsite-directed mutagenesisを駆使して多種の優性阻害性変異TP53強制発現ベクターを作製する戦略もとりたい。 平成26年度の成果から、優性阻害性変異TP53強制発現細胞の腫瘍生物学的性状の解析にあたっては、細胞運動・細胞浸潤・細胞接着能にて有意な結果が得られたので、DN変異p53による遺伝子発現プロファイル変化の解析を行っていく方針である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
DN変異p53による遺伝子発現プロファイル変化を調べるDNAマイクロアレイを行うサンプル数が少なかったこと、また外注にかかる費用が予定額よりも安価であったため。
|
次年度使用額の使用計画 |
各変異p53を発現させた細胞から変異p53蛋白を免疫沈降法によって取り出し、その変異p53蛋白に結合している蛋白を、2次元電気泳動で展開し、さらに質量分析によって同定する。(質量分析は外注するため、その費用に繰り越し分をあてる予定である)
|