口腔癌においてリンパ節転移は患者の生死を規定する大きな要因であるが、現在のCT、 MRI、PET および超音波診断等の画像診断法を駆使しても、長径10mm に満たないリンパ節の微小転移を検出することは困難である。一方、急速に進行する高齢者人口の増加に伴い、全身麻酔下での手術に様々な制約を伴う症例が急増しており、手術時間の短縮のため術中のリンパ節生検が困難な症例も多々存在する。 本研究の目的は、リンパ節間質液圧の特性に基づいた新たなリンパ節転移検出法を、我々の研究グループが樹立したヒトと同等の大きさのリンパ節を有するリンパ節転移モデルマウス、MXH10/Mo/lprマウスを用いて検討し、従来の画像法では診断が困難であった術前・術中のリンパ節微小転移の診断法を開発することである。これまで、MXH10/Mo/lprマウス、ルシフェラーゼ発現腫瘍細胞、生体発光イメージング装置、 高周波超音波画像解析装置、蛍光実体顕微鏡および圧力トランスデューサーを用いて、リンパ節転移開始タイムゼロから、転移リンパ節の体積、ルシフェラーゼ活性、血管密度、間質液圧を経時的に測定し、同時期に採取した病理組織標本を用いて免疫組織化学的に腫瘍細胞、腫瘍血管およびリンパ管の増殖パターンを把握し、 間質液圧とそれぞれのパラメーターとの相関性を検討し、リンパ節間質液圧を指標としたリンパ節早期診断システムの開発の可能性を検証した。その結果、MXH10/Mo/lprマウスの腸骨下リンパ節にルシフェラーゼ発現腫瘍細胞を接種し、マウスリンパネットワークにおいて腸骨下リンパ節の下流にあたる腋窩リンパ節内の圧力を測定したところ、生体発光イメージング装置で転移病巣を確認できる以前にリンパ節内の圧力上昇を確認できた。この圧力上昇の原因として、リンパ節内の血管密度の上昇との関連が示唆されるが、現在のところ確証には至っていない。
|