信州大学医学部附属病院で加療された口腔扁平上皮癌患者についてアポトーシスと炎症シグナル制御蛋白質(apoptosis-associated speck-like protein containing a CARD、以下ASC)の発現を後ろ向きに調査した。 ASCは癌抑制遺伝子様に作用することも報告され、種々の悪性腫瘍ではASC領域のDNAのメチル化が報告された。これらの所見から、ASC発現と癌の予後との関連も示唆されている。そこでわれわれは口腔扁平上皮癌(OSCC)におけるASC発現とその臨床的意義について検討を行った。また、ASC発現とアポトーシスおよび分化との関連について検討を加えた。In vivo: OSCCと診断された119例を対象とし抗ASC抗体により免疫組織化学的手法によりASCの発現量を評価し、同症例の臨床病理学的所見および予後との関連を統計学的に解析した。またASCおよび分化マーカーであるinvolucrin(IVL)発現の比較検討を行った。加えてアポト-シス発現状況をTUNEL染色で調べASC発現状況との比較検討を行った。 In vitro: ASCと分化との関連を検討するために以下の実験を行った。分化前後でのASCの変化を検討するために正常ヒト角化細胞(NHEK)と不死化ヒト角化細胞(HaCaT)を用い分化誘導行った。NHEKとHaCaTの分化前、分化後1日目と2日目のASCとIVLのmRNA発現を定量的PCRでタンパク発現とをwestern blot法で検討した。また正常細胞と口腔癌細胞株でのASCとIVLについて同様に検討した。その結果、下記の結果を得た。 ASCはOSCCで統計学的に独立した予後因子であり、ASC低発現群のOSCCは統計学的有意に予後不良であった。ASC発現はアポトーシスが起きている周囲に発現しており、アポトーシスと統計学的にも関連していた。ASC発現は正常上皮の分化と相関している。またOSCCではcancer pearl周辺に発現していた。細胞株を用いた研究では分化が進むにつれASCのタンパク・mRNA発現が増加することが示唆された。
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