口唇裂・口蓋裂は口唇、歯槽部、口蓋などの口腔顎顔面領域に裂を生じる先天異常である。ヒトの先天奇形の中で最も頻度の高い疾患のひとつであり、日本人では新生児約500人に1人の確率で発生する。口唇裂治療は乳児期の口唇形成術で終了するのに対し、口蓋裂治療は幼児期の口蓋形成術より学童期の言語治療および矯正治療まで一貫した長期にわたる治療が必要である。現在の治療の主体は外科的治療であり、未だに根本的解決法が存在しない。その原因の一つとして口蓋裂発生時の分子メカニズムが解明されていないことがあげられる。我々はこれまでの研究で、FGFシグナリングを介したMAPK経路の負の制御因子であるSprouty2に着目し、そのノックアウトマウスの形態解析を行ってきた。今年度は、口蓋裂を発症するSprouty2遺伝子欠損マウスより挙上前後の口蓋突起を採取し、マイクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析を行った。gene ontology解析では、硬口蓋でcell adhesion、軟口蓋でcell proliferation に関与する遺伝子群の発現上昇を認めた。その中で、特に発現変動の大きい遺伝子に関して、口蓋突起挙上前後での免疫組織化学染色を行った。免疫組織化学染色では発現の変動を認めず、今回ピックアップした遺伝子は口蓋裂疾患感受性遺伝子である可能性は低いと考えられた。現在、他の遺伝子に焦点をあて、機能解析を継続中である。
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