研究課題
がん抑制遺伝子Cylindromatosis(CYLD)を標的とした siRNAをヒト口腔扁平上皮癌(OSCC)細胞に導入したところ、Ki-67陰性G0期の割合が著しく増加することが判明した。トランスクリプトーム解析の結果、CYLD発現抑制時の遺伝子発現プロファイルは、造血幹細胞の静止期維持に関連する遺伝子発現プロファイルに非常に類似していた。現在、既に構築したCYLDを標的としたCRISPR/Cas9システム、Tet-on shRNAシステムを用いて詳細に解析するとともに、静止期癌細胞モデルの構築を行っている。一方で、骨髄播種癌細胞(BM-DTC)の抗癌剤耐性における自律的分子機構に関して、以下のような論文を報告した。マウスBMにおいて休眠状態を呈するヒトOSCC細胞株HEp3を用いて、in vivo selectionを行い、移植部位(P-HEp3)、BM(BM-HEp3)、肺(Lu-HEp3)由来細胞株を樹立した。Lu-HEp3は、P-HEp3に比べ増殖能が高かった一方で、BM-Hep3は低い増殖能を示した。Lu-HEp3とBM-Hep3はともにシスプラチン抵抗性を示したが、BM-HEp3はより高い抵抗性を示した。BM-HEp3における増殖能低下と抗癌剤耐性は、SDF-1とCXCR4の過剰発現によってもたらされるSDF-1-CXCR4ポジティブフィードバックシグナルの亢進に依存していた。さらに、BM-HEp3において高発現しているTGF-β2が、SDF1とCXCR4の高発現を維持していることが判明した。TGF-β2発現抑制によるSDF-1-CXCR4シグナルの阻害は、BM-HEp3の増殖を促進させ、シスプラチン感受性を完全に回復させた。以上より、BM-DTCは、TGF-β2-SDF1-CXCR4 シグナルを介して、自律的に増殖抑制状態と抗癌剤耐性を維持していると考えられた。また、臓器によって抗癌剤耐性機構は異なる可能性がある。今後のさらなる解析は、静止期細胞モデルの構築とOSCCをはじめとした癌の転移・再発機構の解明に寄与すると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
未だ、CYLDの発現抑制が実際に静止状態を誘導するかどうかは不明瞭であり、静止期癌細胞モデルの確立やそのような細胞の詳細な特性解明には至っていない。その理由には、新しい施設への異動と、ベクター構築に時間を費やしたことが主に挙げられる。一方、申請当初はH27年度に実施予定としていた「BM-DTCの分子学特性の解析」が想定以上に効率よく進んだため、その成果を論文として報告することができた。現在、樹立したBM-DTC株を用いて、遺伝子発現プロファイルの確認と細胞内シグナルの特徴などを解析している。また、H26年4月での施設の異動に伴い、新たに次のような研究実施項目を設けた。PKH26標識法を用いて、各種細胞株において内在性に存在する静止期もしくは非常に増殖の遅い希少集団(ラベル保持細胞)を同定・採取し、同集団の分子学的特性を一細胞レベルでの質量顕微鏡(IMS)とRNAシークエンスで解析した。ひとつのOSCC細胞株に対して行ったIMSの結果、ラベル保持細胞は非保持細胞と異なった分子発現パターンを示していた。このような一細胞レベル解析で得られる結果は、申請当初予定していた実験を支えていくものと考えられる。
H27年5月に他施設への異動が決定している。基本的には当初の研究計画を基盤として以下のように検討を進める。本年度で確立したCYLD標的CRISPR/Cas9システムやTet-on shRNAを応用し、CYLDの静止期への関与を詳細に検討する。Tet-on shRNAによるCYLD mRNA発現抑制の効率が十分ではない可能性を考慮し、CRISPR/Cas9によるノックアウトにて、表現型の評価をまず確実に行う。その後に、静止期癌細胞の株化と特性解明を進める。siRNAによるノックダウンとノックアウトでの表現型の差異がもし認められた場合、すなわち、CYLDノックアウトで静止期誘導が起こらない場合、その原因究明も視野に入れる。H27年度実施予定であった「BM-DTCの分子学特性の解析」に関しては、本年度での成果を糧に詳細な解析を進める。すなわち、骨髄環境でBM-DTCの休眠状態を維持する分子機構の解析や治療標的分子の探索を、in vivoでの解析を交えて進める。BM-DTC株の細胞内シグナルや遺伝子発現プロファイルの解析の結果、骨髄ニッチとも関連しうるいくつかの遺伝子の発現変化、キナーゼの活性化が認められている。新たなに追加した実施項目は、他施設への移動後も共同研究として進める。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (2件)
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