これまでの研究によって歯髄中に歯髄幹細胞と呼ばれる多能性を有した細胞の存在を明らかにし、フローサイトメトリー法を用いて歯髄幹細胞(SP細胞)の作製に成功してきた。このSP細胞を血小板由来増殖因子(PDGF-BB)で刺激することによって、オリゴデンドロサイトの分化マーカーであるOlig2mRNAの発現が誘導されることが分かっている。そこで、PDGFに着目したオリゴデンドロサイトへの分化誘導法の確立、分化誘導メカニズムの解析を本研究の目的とした。 これまでに、PDGF-AAでSP細胞を刺激すると象牙芽細胞の分化マーカーであるDSPPのmRNAの発現を誘導し、一方でPDGF-BBで刺激するとオリゴデンドロサイトマーカー遺伝子の発現は上昇するが、DSPPのmRNAの発現は減少し、さらにはBMP刺激によるSP細胞のDSPPのmRNA発現をも抑制することが分かった。 さらに、ウェスタンブロット法を用いて、PDGF受容体下のシグナル伝達を解析したところ、PDGF-AAでp38のリン酸化が強く誘導される一方で、PDGF-BBで刺激した場合にはERK1/2、p38、Aktが強くリン酸化されることが明らかになった。さらには、PDGF受容体のsiRNA法を用いて解析したところ、PDGF-BBは、PDGFβRを介したシグナル伝達を行っていることも明らかになってきた。また、PDGF-BBはBMPレセプターであるALK3とBMPRⅡのmRNAの発現を抑制し、また、BMPによるsmad5のリン酸化を抑制することが分かった。 このように、SP細胞におけるPDGF-AAと-BBの役割は異なることが明らかになった。特に、分化マーカとシグナル伝達の違いより、PDGF-BBが象牙芽細胞への分化を抑制しオリゴデンドロサイト分化に関与している可能性が示唆された。
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