Apert症候群は頭蓋冠縫合部早期癒合症、合指症を主徴とする。Apert症候群に代表される頭蓋冠縫合部早期癒合症は、多くが中顔面部の劣成長に起因した著しい不正咬合を有するため、歯科にも深く関与する。常染色体優性遺伝疾患であり、原因としてFGFR2の2種類の変異 (S252W、P253R) が同定されている。変異は受容体に対するリガンドの結合能の亢進と結合特異性の喪失を惹起し、これら受容体のリガンド依存的な機能亢進を誘導する。近年、S252WとP253Rに関してノックインマウスも作出され、Apert症候群の病態に関して多くの知見が得られつつある。しかし、これらノックインマウスを用いた病態メカニズムの解明はいまだ完全ではない。また、治療法の開発という視点にたった研究はほとんど行われていないのが現状である。Apert症候群における冠状縫合部早期癒合症に対し、非侵襲的で安全な新規治療法を分子生物学的に開発することを目指し研究を行ってきた。具体的には、Apert症候群モデルマウスに対し、へパラン硫酸分解酵素(ヘパリナーゼ)を用い、FGFシグナルの異常な亢進を抑制することによる、縫合部早期癒合症への治療効果を検討してきた。ヘパラン硫酸 (HS) の存在が、細胞内でのチロシンキナーゼの活性化とリン酸化に必要であり、非存在下では。Ex utero (子宮外胎児手術法、胎仔を取り出し処置後胎内に戻す) 実験系において、ヘパリナーゼおよび対照群としてPBSを担体のビーズに含有させ、胎齢16日のApert症候群マウス冠状縫合上に埋入し、72時間後組織切片 (胎齢19日相当) を作成した。対照群では早期癒合およびBone sialoprotein (Bsp)、Runx2など骨マーカー遺伝子発現の亢進を認めたが、ヘパリナーゼはそれらを抑制し、早期癒合症に対しても治療効果を認めた。
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