歯に矯正力が加わると歯根膜は圧迫される。その結果、圧迫された一部の組織は虚血状態となり硝子様変性が生じる。矯正力は一時的 に歯根膜組織に障害を与えるにもかかわらず、これまで、その細胞・分子機構や、障害に対する細胞の生体防御反応について十分な検討はされてこなかった。一般的に細胞が虚血や酸化ストレスなどの様々な異常環境に曝露されると、不良タンパク質が小胞体に蓄積し 細胞に小胞体ストレスが加わる。同時に、細胞は障害を回避するために不良タンパク質の修復や分解を行うシステムを駆動させ、障害から身を守り恒常性を維持する。そこで、本研究では、矯正力によって圧迫される歯周組織に小胞体ストレスと小胞体ス トレス応答が生じるか、その詳細を検討するため、実験的歯の移動による歯根膜の圧迫が組織の低酸素状態を惹起するか、また、それがいつどこに生じるのかを明確にすることを計画した。実験的歯の移動モでルを用いた低酸素状態となる組織部位を特定した結果、ラットの実験的歯の移動モデルにおいて低酸素マーカーであるピモニダゾールにより低酸素状態となる組織部位を特定した。さらに、小胞体ストレスマーカーのmRNA発現レベルをin situ hybridizationで観察した結果、これまでに、小胞体ストレスマーカーであるCHOP、GRP78おおよびAft4のmRNAの発現をin situ hybridizationで確認することができた。さらに詳細な解析を進めることによりこれまで明らかにされていない歯の移動における小胞体ストレスのメカニズムが解明されることで、矯正治療のリスクとされている歯根吸収や歯槽骨レベルの低下等に対する問題の解決の糸口となる基盤的所見が得られることが期待される。
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