エナメル質は、歯を構成する生体内で最も硬い組織であり、人が食生活を営む上で重要な役割を持つ。これまでエナメル質は、一旦齲蝕等で破壊されると再生することは不可能であり、人工物による修復治療しか行えなかった。そのため、エナメル質を形成するエナメル芽細胞の分化・成熟およびその基質産生メカニズムの解明が望まれてきた。これまでに、凍結組織切片や少量の組織からレーザーマイクロダイゼクションを用いて物理的にエナメル芽細胞を単離する方法や、選択培地で選択培養する方法等が試みられてきたが、発生過程にある新鮮な歯胚から直接大量のエナメル芽細胞を採取する方法は確立されていない。本研究は、これまで困難であったエナメル芽細胞の効率的な単離方法を確立させ、歯の発生過程におけるエナメル芽細胞の遺伝子発現ならびにその分化制御に関する基盤的情報を得ることを目的に、胎生マウスから歯胚を摘出後、エナメル芽細胞を含む細胞群を分離・回収した。回収した各歯胚をメス等を用いて細断後、コラゲナーゼ等を用いて、エナメル芽細胞を含む細胞群(エナメル芽細胞は多種の細胞と混在した状態)を分離・回収した。フローサイトメトリーを実施するにあたり、歯胚から分離・回収した細胞群は、可能な限り単一細胞に分離させておく必要があるため、各試薬を用いて分離・回収した細胞群において、効率的な試薬濃度や反応時間を詳細に検討し、少ないサンプルからより多くのエナメル芽細胞を効率的に取り出すための条件設定を探索した。
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