研究課題/領域番号 |
26861787
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
光吉 智美 広島大学, 大学病院, 歯科診療医 (00633687)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 変形性顎関節症 / ヒアルロン酸 / リモデリング / 潤滑機能 |
研究実績の概要 |
正常な顎関節では、下顎頭と下顎窩の間に関節円板が介在しており、これが負荷に対する緩衝作用を発揮している。顎関節OAは、下顎頭軟骨の吸収破壊を初期病変とする退行性疾患で、慢性の関節炎と下顎骨の変形に伴う咬合異常、顎機能障害、顔貌の不調和を引き起こす疾患である。顎関節OAの発症には、顎関節組織に対する過度な圧縮負荷が関与しており、下顎頭に加わる機械的負荷がkeyfactorと考えられているが、そのメカニズムについての詳細はいまだ不明な点が多く、歯科臨床において治療が困難な疾患と位置付けられている。 そのため、本研究では顎関節OAの発症機序ならびに顎関節の構造変化に着目し、機械的刺激と高分子HA が培養軟骨・滑膜細胞に及ぼす影響を探索することを目指した。実験1としてヒト軟骨・滑膜細胞を三次元培養し、過度な繰り返し機械的刺激負荷を与えたときの遺伝子・タンパク発現変化を解明した。さらに機械的刺激時の高分子HA投与が遺伝子・タンパク発現変化に及ぼす影響について解析を行った。過度な機械的刺激負荷後、炎症性サイトカインであるIL-1βおよび基質分解酵素(MMP-1,MMP-3,MMP-13)は、コントロール群と比較してそれぞれ3時間後、6時間後に有意に増加し、12時間後には減少した。一方で、高分子HA合成酵素(HAS2)の発現は減少し、低分子HA合成酵素(HAS3)の発現は増加した。また機械的刺激時の高分子HA投与は、HAS2遺伝子発現を亢進させ、HAS3遺伝子発現を抑制させた。 今後は、実験2として顎関節OAによる関節組織のアポトーシス変化および顎関節内への高分子HA投与がトロンビン、一酸化窒素(NO)産生に及ぼす影響の解明していく。また実験3として、ラット過開口OAモデルの顎関節への高分子HA投与が関節組織の再生に与える影響の解明をしていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ヒト滑膜細胞を三次元培養し、過度な繰り返し機械的刺激負荷を与えたときの遺伝子・タンパク発現変化は解明することができた。さらに、機械的刺激時の高分子HA投与が遺伝子・タンパク発現変化に及ぼす影響についても解析を行うことができ、実験1については概ね達成できたといえる。 しかし、当初計画していた 顎関節OAによる関節組織のアポトーシス変化および顎関節内への高分子HA投与がトロンビン、一酸化窒素産生に及ぼす影響についての検討がまだ達成できてない。これは、ラット過開口OAモデルの顎関節組織の摘出が安定して施行できなかったこと、またそれぞれ摘出しアポトーシス細胞をマイクロプレート内で標識し発色させて、半定量的に検出するステップが困難だったためと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、実験2として、顎関節OAによる関節組織のアポトーシス変化および顎関節内への高分子HA投与がトロンビン、一酸化窒素(NO)産生に及ぼす影響の解明を行っていく。まず、ラット過開口OAモデルの顎関節への高分子HAの投与/非投与の顎関節組織をそれぞれ摘出し、アポトーシス細胞をマイクロプレート内で標識し発色させ検出する。さらにPCR法とWestern blot法を用いて高分子HAの存在/非存在でのトロンビンの発現変化を遺伝子およびタンパクレベルで定量解析する。次に、実験3としてラット過開口OAモデルの顎関節への高分子HA投与が軟骨・滑膜細胞の炎症性サイトカイン、骨・軟骨細胞分化を誘導する遺伝子(Sox9、アグリカン、Ⅱ型コラーゲン、Ⅲ型コラーゲンなど)や、基質分解酵素(MMP-1,3,13)、HA合成・分解酵素(HAS1/2/3、HYAL1/2/3)に与える影響を、PCR法とWestern blot法を用いて遺伝子およびタンパクレベルで定量解析する。これにより、顎関節OAモデルの顎関節内への高分子HA投与が軟骨・滑膜組織をはじめとした関節組織のリモデリングに及ぼす影響とその機序を解明する。
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