抗がん治療の急速な進歩により,化学療法や放射線治療などの骨髄破壊的な処置を伴う造血幹細胞移植を受ける小児が近年増加している。このような治療は,しばしば重篤な口腔粘膜炎を惹起し,痛みや摂食困難を生じるため,小児のQOLの低下を招いている。 本研究では,広島大学病院小児科に入院し骨髄抑制下にある小児を対象として,各個人専用に作製したマウスピース様のドラッグリテイナーと抗菌薬を応用した全身的感染予防プログラム(3DS)を実施し,3DS前後の粘膜状態および口腔細菌叢の変化について前年度からの調査を継続して行った。しかし,当院小児科は中四国の血液疾患の基幹病院であるため,低年齢で協力の得られない小児や病状の進行した小児,他院で治療成績不良の小児など,難症例の入院が多く,3DSを実施できない小児が増加した。また,抗がん治療の多様化,治療機関の専門化が進み,化学療法後に他院へ転院して陽子線治療を受ける小児や,他院で移植前処置を受けた後に当院に入院して造血幹細胞移植を受ける小児など,3DS前後の粘膜状態および口腔細菌叢の変化について継続して評価することができない小児が増加した。さらに,HLA一致骨髄移植,HLA半合致骨髄移植,末梢血幹細胞移植,臍帯血移植など,寛解に至るまでにひとりの小児に対して複数回の造血幹細胞移植を実施するケースが増加し,平均入院期間が延長したため,当初の想定と比較して研究対象となる小児が減少した。 研究最終年度の本年度は,これまでに得られた成果をまとめ,英語論文を3本執筆した。今後は,順次学術雑誌への投稿を進める予定である。
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