研究実績の概要 |
歯科矯正治療(咬合の改善)の目的の一つに口腔機能の改善がある。一方、口腔機能の中心的役割を果たす咀嚼筋は可塑性を有し、その表現型(筋線維サイズ、筋線維タイプ)や生理機能は様々な咬合の状態に適応することが知られている。しかしながら、その分子レベルでの詳細な機序には不明な点が多い。また、矯正治療過程、治療後の咬合および口腔機能の安定には咀嚼筋の適応が必要不可欠である。したがって、口腔機能の改善を効率的に行うには咀嚼筋の適応機構の詳細を解明する必要がある。 本研究ではマウスの咬合挙上モデルを作製し、咬合状態の変化に対する咀嚼筋の表現型と生理機能の適応現象、およびその誘発機構を解明することを目的とした。これまで実験動物にラットを用いていたが、より遺伝情報の豊富なマウスを実験動物に用いることにした。下顎切歯に咬合挙上板を装着したマウスの咬合挙上モデルを作製し、予備実験にて咀嚼筋の適応現象が誘発されるモデルであることを確認後、表現型(筋線維サイズ、筋線維数、筋線維タイプ)の解析を行った。 最終年度では適応現象を誘発する分子機構を解明するため、咬合挙上とデキサメサゾン投与を併用し、可能性のあるシグナル伝達経路に関与する因子(ERK1/2, Akt, NFAT, CaMKII, HDACなど)の発現量およびリン酸化レベルをWestern blotting法にて定量的に解析し、その結果を平成28年度第58回歯科基礎医学会学術大会(札幌)において「咬筋および心筋における咬合挙上の筋肥大効果とデキサメサゾンの拮抗作用」というタイトルでポスター発表を行った。デキサメサゾンが咬筋に対して咬合挙上による筋肥大を抑制するだけでなく顕著な筋萎縮をも誘発したこと、骨格筋の種類によってデキサメサゾンに対する感受性またはその作用機序が異なることを示唆するという発表を行った。
|