歯周病はPorphyromonas gingivalisに代表される歯周病病原細菌が原因となり歯周組織の炎症と歯槽骨吸収が起こる疾患である。さらに歯周病に罹患した歯に過剰な咬合力が加わると急速な歯槽骨吸収がみられることが知られており、そのメカニカルストレスは咬合性外傷と定義されている。しかしながらその分子メカニズムはほとんど不明である。 本研究では慢性炎症下での骨芽細胞に対するメカニカルストレスの影響を検討する目的でメカニカルストレス応答性イオンチャネルTRPV4(Transient receptor potential vanilloid 4)に着目した。TRPV4は骨芽細胞に発現し、分化にともない発現の上昇が認められた。また分化した骨芽細胞にメカニカルストレスのひとつである流水ストレスを負荷したところ、分化前の骨芽細胞と比較し、細胞内カルシウム濃度変動の回数が優位に上昇した。この結果から骨芽細胞の分化はメカニカルストレスの感受性を向上させることが示唆された。そこでTRPV4欠失マウス由来の骨芽細胞に同様のメカニカルストレスを負荷したところ、野生型マウス由来の骨芽細胞と比較し、細胞内カルシウム濃度の初期変化が起きるまでの時間の遅延と細胞内カルシウム濃度変動の回数の低下がみられた。以上の結果からTRPV4は骨芽細胞に対するメカニカルストレスによる細胞内カルシウム濃度変動を制御しており、メカニカルストレスと骨代謝におけるTRPV4の重要性が明らかとなった。
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