薬物性歯肉増殖症(歯肉増殖症)は抗てんかん薬フェニトイン、カルシウム拮抗薬ニフェジピン、免疫抑制薬シクロスポリンAを主に服用する患者に見られる歯肉の肥厚を特徴とした歯周疾患である。現在薬物性歯肉増殖症の治療法は薬剤の変更や歯肉切除に留まり、根本的な治療法は現段階では確立されていない。治療法の開発のためには詳細なメカニズム解明は不可欠である。メカニズム解明のため、本研究では薬物性歯肉増殖症マウスモデルの確立を目指した。これまでに歯周治療が薬物性歯肉増殖症の改善に有効であったという報告がある。このことから、歯周組織の感染が歯肉増殖症の発症に関与していると仮説し研究を行った。 野生型マウスの上顎第二臼歯に絹糸を結さつすることで歯周炎を惹起させた。その一週間後にシクロスポリン(50mg/kg/day)を四週間腹腔内投与した。また細菌感染が歯肉増殖症発症に関与しているか調べるため、抗菌薬を絹糸結さつと同時に投与した。シクロスポリンと同じ作用を持つタクロリムス、異なる作用で免疫抑制作用を示すミゾリビンを腹腔内投与し、増殖症発症の有無を検討した。またシクロスポリンの投与中止が歯肉増殖症を改善するか検討した。 絹糸結さつしシクロスポリンを腹腔内投与することで、歯肉増殖症を発症させることができた。また抗菌薬の前投与は増殖症の発症を抑制した。またタクロリムスも同様に増殖症を発症させたが、ミゾリビンは発症させなかった。シクロスポリンを中止することで増殖症は改善した。 本研究でシクロスポリンに誘導されるマウス歯肉増殖症モデルを確立した。その発症には細菌感染が関与していることが示唆された。またタクロリムスでも発症させることができたことからカルシニューリン阻害作用が増殖症に関与していることが示唆された。さらなるメカニズムの解明が新規治療法確立につながると考える。
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