研究課題
日本人の主要死因である心血管疾患(CVD)は、骨折・転倒や認知症と並んで要介護状態に直結する三大原因の一つである。近年、疫学調査によりCVDと慢性腎臓病(CKD)の合併はそれぞれの病態を悪化させることが報告され、心臓と腎臓の機能的連鎖が認識された(心腎連関)(Bongartz, et al. Eur Heart J. 2005)。歯周病はCVDとCKDに共通する基盤病態として注目されている(Fisher, et al. Kidney Int. 2011)。三者が関連する経路は数多くの因子が複雑に関与しているが、心腎連関進展に対する歯周病の影響に関するメカニズムは疫学的に十分に証明されていない。本研究は、腎・内分泌代謝機能の視点から血漿抗体価測定を用いた歯周病原細菌感染度の関連を評価することにより、歯周病が心腎連関進展へ与える影響を明らかにすること目的とする。初年度は調査に地域在住79歳高齢者216名を対象に血漿抗体価測定を用い,歯周病原細菌感染度とメタボリックシンドロームとの関連を調査した。メタボリックシンドローム有病者はPorphyromonas gingivalisに対する血清抗体価上昇のオッズ比が有意に高いことを明らかにした(Iwasaki et al. Gerodontology. 2014a)。そしてメタボリックシンドロームと歯周病の関連を縦断的に評価した(Iwasaki et al. Journal of Periodontology. 2014)。また、シスタチンCを用いて推定した腎機能と歯周病との関連を明らかにした(Iwasaki et al. Gerodontology. 2014b)。さらに対象者の生活習慣に解析の対象を広げ、全身と口腔との関連について明らかにした(Iwasaki et al. Community Dental Health. 2014; Iwasaki et al. Geriatric Gerontology International. 2015)。
1: 当初の計画以上に進展している
主に腎・内分泌代謝機能の視点から歯周病と全身の関連について研究を進め、初年度に英語原著論文5本に研究結果をまとめ公表した(Iwasaki et al. Gerodontology. 2014a; Iwasaki et al. Journal of Periodontology. 2014; Iwasaki et al. Gerodontology. 2014b; Iwasaki et al. Community Dental Health. 2014; Iwasaki et al. Geriatric Gerontology International. 2015)。今回、主要評価項目とする腎機能、内分泌機能以外にも、地域在住高齢者252名を対象として、歯・口腔の健康と食の多様性の関連を評価した。結果として、歯をより多く喪失している女性は、そうでない者と比較して食の多様性が低いことが明らかとなった。さらに地域在住高齢者352名を対象に唾液分泌量と食品・栄養素摂取の関連を評価することを目的に横断調査を行った。結果として、刺激時唾液量が低下している者はそうでない者と比較して有意に食品・栄養素の摂取量が低下していることが明らかとなった。現在は初年度にデータを採得した対象者からなるコホート研究データベースの構築に取り掛かっている。以上のように、当初の計画以上に順調に進展していると言える。
研究が計画以上に進展しているため、対象者を地域在住高齢者のみでなく、血液透析患者にも広げ、歯周病とCVDとの関連を腎・内分泌代謝機能の視点から明らかにしていく予定である。我々は2008年に血液透析患者を対象とした疫学調査前回調査(No. 08-002 課題名:血液透析患者を対象とした口腔ならびに全身の健康調査)を行い、口腔および全身に関連するデータを広く収集した。今回、追跡調査では、既存資料を用いた疫学研究用CVDデータベースを構築し、調査期間中のCVDの発症とそれによる死亡を標的として、ベースライン時の歯周病重症度、および歯周病原細菌感染度の関連を評価することにより、歯周病が心腎連関進展へ与える影響を明らかにすること目的とする。データの整理、解析、および研究結果の発表は2016年度後期を予定している。なおデータの解析においてはThe University of California, San Francisco, School of Dentistry教授George W. Taylorと連携をとって行う予定である。
当初計画では疫学調査フィールドを新潟県内の地方都市一箇所とする予定であったが研究参加者数をさらに増やすため新たな研究フィールドを設定することとした。新なフィールドにおける調査は平成27年度前期から実施する予定であり、26年度に調査参加スタッフを集めた会議を開催する必要がでた。このことにより、旅費その他にかかる費用が新たに生じたため、前倒し支払い請求をした。その余剰分が次年度使用額として残る形となった。
平成27年度に請求する金額は減るものの、最終的な研究対象者数は変わらず、研究費の大きな部分を占める血清抗体価調査にかかる費用に変化は生じないため、研究を遂行する上で大きな問題は生じない。また、平成28年度の計画は歯周病原細菌感染度と循環器・腎・内分泌代謝機能の関連の評価・研究結果報告である。研期期間全体を通して研究協力者およびコホート研究事務局と綿密に連携をとり、必要な援助を得ながら、研究目的の達成を目指す。
すべて 2015 その他
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 謝辞記載あり 5件) 学会発表 (1件) 備考 (2件)
Gerodontology
巻: N/A ページ: N/A
10.1111/ger.12135
10.1111/ger.12159
Journal of Periodontology
10.1902/jop.2015.140398
Community Dental Health
10.1922/CDH_3502Iwasaki07
Geriatrics & Gerontology International
N/A
http://www2.kyu-dent.ac.jp/dept/oral-health/
http://www.dent.niigata-u.ac.jp/prevent/japanese/index.html