研究実績の概要 |
チンパンジー口腔細菌叢解析の中で、う蝕の原因菌であるミュータンスレンサ球菌群に属す菌種を調べた結果、チンパンジー11個体中4個体からStreptococcus troglodytae,3個体からStreptococcus dentirousettiが分離され、論文に発表した(Microbiol. Immunol. 2013, 57, 359)。 ミュータンスレンサ球菌群のグルコシルトランスフェラーゼ遺伝子の系統進化は宿主哺乳類の生物学的進化と同様に進行することが報告されている(PLoS One, 2013, e56305)。S. dentirousettiは、オオコウモリ口腔から分離されたが(IJSEM,2008,160)、進化程度の異なるチンパンジー口腔になぜ存在するのか疑問が残った。近年、アフリカでエボラ出血熱が流行し、チンパンジーもエボラ出血熱に感染する。オオコウモリが最もこのウイルスキャリアーと考えられ(Nature, 2005, 438, 575)、チンパンジーがオオコウモリと接触、あるいは捕食する可能性が考えられた。捕食関係で動物間の口腔細菌の感染が起こるのか、又この細菌はコウモリ由来のS. dentirousettiと同じなのか疑問に思った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度の課題として、チンパンジーから分離されたS. dentirousetti TKU32の全遺伝子解析をピローシーケンス法で行い、詳細に検討した。 その結果、TKU32は2,248,552 bpの連続した1つのscaffoldが得られ、GC含量は43.80%であった。DDBJのMiGAPアノテーションソフトによるドラフト解析では、2078個のCDS、6個のrRNA loci、68個のtRNAが存在した。チンパンジーから分離されたS. dentirousettiは細菌分類の定義である16S rRNA遺伝子相同性ではオオコウモリのそれと100%一致し、細菌学的分類ではS. dentirousettiと考えられるが、グルコシルトランスフェラーゼ遺伝子など他の遺伝子の解析ではオオコウモリのものとは異なり、分類学的に異なる菌種と考えられた。 このことから感染経路は捕食によるものではないことが推測されたが、分類的位置関係は今後の課題となった。 平成27年度には、更にミチスグループに属する新菌種を発見し、Streptococcus panodentisと命名した(Microbiol. Immunol. 2015)。ミチスグループに属する細菌は、病原性がなく、むしろ病原菌の侵入を防ぐ働きの口腔常在菌が多い中、唯一病原性が強い肺炎レンサ球菌が含まれ、今後これらの菌の遺伝子を調べることにより、肺炎レンサ球菌の病原性遺伝獲得のメカニズム解析に役立つものと考えられる。
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