造血幹細胞移植は、近年は移植法も多様化し、60歳以上でも可能になってきている。移植成績が向上するにしたがい、移植後の慢性GVHDなどが問題となっている。以前は移植治療の対象が若年者のみだったが、近年は高齢者にも適応が広がったことにより、口腔環境が不良の患者が増加し、歯性感染症の増加、口腔粘膜障害の重症化が問題となった。移植開始前から歯科による専門的口腔管理を行うことで口腔有害事象が減少したという報告もあり、専門的口腔管理を行うことが推奨されている。本研究の目的は、①造血幹細胞移植患者の口腔内環境、慢性GVHD患者の口腔衛生状態の調査を行い検討する。②慢性GVHD患者の口腔病変を病理学、免疫学的に検討することである。造血幹細胞移植患者の口腔内環境、慢性GVHD患者の口腔衛生状態の調査、また造血幹細胞移植患者の口腔管理法を検討したところ、口腔粘膜障害の重症度に関連する因子として移植前の専門的口腔清掃が選択された。当科の造血幹細胞移植患者全例に専門的口腔清掃を導入したところ、口腔粘膜障害の重症度は軽減した。また口腔慢性GVHD患者の口腔粘膜について蛍光観察法で検討したところ、口腔粘膜症状が視診では改善したと評価した症例で、蛍光観察法で評価すると炎症が残存している可能性が示唆された。NIH Oral Mucosal Score(NIH)と口唇組織との関連性については、NIH OMSと口唇組織の病理組織所見とは関連性を認めたが、小唾液腺組織とは関連性は認めなかった。HPV感染を示唆する免疫染色P16の検討を行ったが、口腔慢性GVHDの口唇組織、小唾液腺組織で陽性例が多く、HPV感染と口腔慢性GVHDの病態と何らかの関連性があることが示唆された。
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