本研究の目的は深くゆっくりとした呼吸活動を毎日繰り返して実施する方法「Slow Breathing Exercise:SBE」が副交感神経活動リザーブを高めるかを明らかにすることである。 平成28年度は、若年健常男性を対象としたSBEの効果について、4週間の期間における実施群と非実施群の比較検討を行った。その結果、非実施群に比べてSBE実施群では4週間後に安静時の副交感神経活動指標が増大し、末梢循環指標が増加した傾向を有した。これらのことから、若年健常男性を対象とした4週間のSBEは副交感神経活動リザーブを高めることが分かった。 次に、若年健常男性を対象とした上記の結果をもとに、SBEの臨床効果についても検討を行った。対象は外来通院している慢性腎臓病患者とし、外来受診日から次回の外来受診日までの期間にSBEを実施する方法を用いた。その結果、SBE実施前より実施後において副交感神経活動指標が高まる症例と変化しない症例と両方を認めた。SBEの実施状況は症例間で差異を認めたが、実施頻度が高くても副交感神経活動指標が変化しない症例も認めた。これらのことから、慢性疾患患者においてはSBEの実施頻度だけではなく、その他要因によってもSBEの効果に違いが生じていることが考えられ、今後の検討課題となっている。 以上のように、慢性疾患患者への臨床効果として、SBEが副交感神経活動リザーブを高めて症状の改善に有効かどうかについて結論は出なかったが、これまで得た知見をもとに平成29年度から新規採択された次の研究課題において詳細に検討していく。
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