本研究の目的は、自閉症スペクトラム障がい(以下、ASDとする)のある子ども自身、家族自身が語る“ASD”の意味を明らかにし、子どもや家族にとってASDを語ることがどのような経験であるかを提示することである。そして“語ること”に焦点を当てた看護者の関わりを提案することを目指す。 本研究はナラティヴの考え方に基づき、ASDの意味は、対話により協働的につくられていくと考えた。研究参加者は、自閉症、広汎性発達障がい、高機能自閉症、アスペルガー症候群などASDに総称される診断を受けており、言葉による対話が可能な子どもとその家族とした。データは、子どもと著者、家族と著者との対話により収集し、子どもや家族が価値をおくことに焦点をあてて対話を実施した。子どもと著者との対話は子どもごとに2回、家族と著者との対話は家族員ごとに1回実施した。データは、事例ごとに質的帰納的に分析した。本研究は、大学の研究倫理審査部会の承認を得て実施した。 研究には5家族が参加した。インタビューを行った子どもは7名、家族員は8名であった。研究に参加した家族員は家族ごとに異なったが、全ての家族において母親は研究に参加した。子ども達は、自分自身について、困難さのみではなく、多くの自分らしさを語った。対話への感想では、ほとんどの子どもが嬉しかったと答えた。また家族員は、子どものASDについて、課題としてだけではなく、その子の長所や強み、家族で乗り越えてきた課題、家族関係を深めた経験として語った。対話への感想として、知らない子ども一面がを知った等が挙げられた。 子どもや家族との対話において、ASDは、コミュニケーションの障がいや困り事に限定されず、多様な意味で語られた。また自分自身や家族について語る対話は、子どもには心地よい経験であり、家族には新たな子どもの見方を知る機会となることが示唆された。
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