平成28年度は、全ての対象者の語りを現象学的看護研究を視座に分析した。術後の生活では、手術によって歩けるようになったことが手術を受けた恩恵として語られた。これまで医療者が術後の患者の生活の中で捉えようとしていたADLの拡大や歩容の改善、疼痛の緩和への対象者の関心は乏しく、対象者はただ「歩けること」それ自体を主題化し、日常生活の中で歩けている自分を確認しつづけることで未来の生活を予持し、少し先のことが見えることが患者にとっての希望となっていた。日本語版健康増進ライフスタイルプロフィール(HPLP)では、先行研究と比して本研究の対象者の下位尺度の得点が高い傾向を示しており、高齢であり下肢の人工関節置換術という侵襲の大きな手術を受けているが、身体活動が他と比して高い傾向を示し、手術によって歩けるようになったことが点数に影響を与えていると考えられた。 下肢人工関節置換術を受けた方によりよく生活するために、医療者の考えたプログラムやリハビリテーションを遂行してもらうのがこれまでの術後のケアであったといえる。しかし本研究では高齢者自らがすでに行っている生活のなかに、「より健康になろう」というヘルスプロモーションの基軸を見いだした。それは、手術によって歩けるようになったことの指標をもちつつ確認し、動けている身体を確認していたこと、動けている現在の身体は、未来の活動を現在の身体を基盤として予測し、未来を見据えることにつながっていたことであった。こうした動けている身体の確認や歩けるという指標の発展性は、日常生活のなかに埋め込まれているが、医療者が高齢者とのやりとりによって日常生活における身体の動きや指標となる歩けることを顕在化していくことが本研究のヘルスプロモーション促進モデルとなると結論づけられた。
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