健康寿命の延伸や介護予防においては、高齢者の体力や機能的状態が大きく関与し、とりわけ歩行機能や転倒予防が重要である。転倒リスクには、内的要因と外的要因があり、そのなかでも転倒歴、歩行障害、バランス障害および下肢筋力の低下はそのほかの要因よりも転倒に対する相対リスクが高いとされている。しかし、これらの要因は運動機能が比較的高い高齢者ではリスクが検出できないことがある。転倒は、これらの諸要因が相互に影響し合い、その結果として発生すると考えられる。そこで、本研究では転倒に関連する要因として敏捷性(agility)を追加し、それぞれの要因の相互関連性を構造方程式モデリングによって包括的に分析した。その結果、運動機能評価ではステッピングのみが転倒群と非転倒群に有意差(p<0.05)が認められた。また、高齢者の転倒に関連する要因の相互関連性をパス・ダイアグラムとして視覚化した。最終モデルは、統計学的にモデルを採択する基準を満たしていた(GFI:0.98、AGFI:0.94、RMSEA:0.00)。本研究の成果として、高齢者の転倒には下肢の敏捷性、その背後に潜在する移動能力には下肢筋力とバランス能力が直接的に関連する要因であることが示唆された。そのため、転倒予防には予期しない外的刺激に対していかにすばやく1歩を踏み出せるかが重要な役割を果たし、この敏捷性を積極的に促すことが必要であると考えられた。
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