老年期うつ病者の「レジリエンス」について新たな知見を深めるために、回復過程を促進した力という視点から調査を行った。ナラティブ研究法を使用して収集したデータを分析した結果、「情緒的つながりの感覚」「人生との対話」「発見」という3つのテーマが明らかとなった。「情緒的つながりの感覚」には、「人の優しさや親切を素直に感じとれる感性がある」「地域の人と情緒的にコミットメントしている」などの3つのサブテーマが含まれていた。「人生との対話」には、「人生で構築してきたものがある」「死と向き合う力がある」などの7つのサブテーマが含まれていた。「発見」には、「自然な自分がみつかる」「スピリチュアリティが高まる」という2つのサブテーマが含まれていた。精神看護専門看護師および老人看護専門看護師と検討しながら、既存の老年期うつ病者に対するケア、すなわち「症状の程度の把握」「身体症状の緩和」「抑うつの緩和」などに、今回の研究で明らかとなった「人生との対話」や「スピリチュアリティの高まり」が進展するような支援項目を組み込み、老年期うつ病者のレジリエンス向上に寄与する治療的看護実践の指針を作成した。作成した治療的看護実践の指針をもとに、4名の老年期うつ病者に対して継続的に看護介入を実施した。その結果、介入の初期には悲観的な訴えや身体の不定愁訴などがみられていたが、面接の回数を重ねるごとに人生との対話や自己洞察が深まり、スピリチュアリティが高められた。介入の終結時には、抑うつ症状が改善あるいは症状がありながらも、人生への肯定的な意味づけや生きる力が芽生えるようになっていた。このことから、老年期うつ病者の「レジリエンス」向上に寄与する治療的看護実践の指針は有効であることが示唆された。
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