本研究は、保健師に求められる自然災害への備えについて多角的に検討し、平常時の保健活動に取り入れていくための方策を探ることを目的とし、保健師と市町村職員を対象とした調査を実施した。 平成26年度は、平成25年度に豪雨災害を経験したA町の保健師およびA町の管轄保健所の保健師を対象としたグループインタビューを実施した。平成27年度は、A町保健医療福祉担当課職員(保健師以外)を対象とした自記式質問紙調査を実施した。また、保健師経験による違いを加味して検討するために、A町とほぼ同時期に豪雨災害を経験しかつ幅広い経験年数の保健師がいるB市とその管轄保健所において同様の調査を実施した。 保健師への調査から、災害時保健活動のマニュアル等が整備されていない中で活動する際には、先輩保健師の経験の蓄積や平常時からの人間関係および組織間の関係性をベースとし、保健師個々の日頃の活動経験を活かしながら状況判断が行われている実態があった。また、保健師が災害時に専門能力を発揮するための備えの必要性を認識しつつもなかなか行動に移せないこと、組織の中にベテラン保健師がいても有事の際は様々な事情により経験の浅い保健師のみで対応しなければならない状況が生じ得ること、保健所から被災した市町村へ支援に入るタイミング等の課題も明らかになった。 市町村職員への調査から、災害時の保健師の役割として専門職とのつながりを要する支援への期待が高まっていること、平常時から災害時要援護者や災害時に必要な医療に関する知識の共有およびシミュレーション等に保健師と職員が連携して取り組む必要があると考えられていることが明らかになった。 災害に対する保健師の平常時からの備えを考える上では、保健師基礎教育時から危機管理意識を高めること、現場においては日頃の体制やつながりを踏まえながら保健師と職員がともに進めることの重要性が示唆された。
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