研究課題/領域番号 |
26870001
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
見附 陽介 北海道大学, 文学研究科, 専門研究員 (10584360)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 哲学 / 倫理学 / 合理化 / 機械化 / テイラー主義 / 労働 / アクターネットワーク理論 |
研究実績の概要 |
本年度は、研究計画に基づき、テイラー主義・フォーディズムの社会的影響を研究し、それが身体と環境の関係にどのような変化をもたらすかを解明した。 テイラー主義あるいはフォーディズムは、単に生産場面における近代的合理性の実現という意味だけでなく、他方でこれまで労働における人間性の喪失や、あるいはいわゆる労働者の疎外という文脈においても語られてきた。しかし本研究の今年度における成果は、この問題を身体論の文脈から捉え直したところにある。 本年度は、まずはマルクスの『資本論』における機械の分析の理論的意義を研究することで、生産における合理化が与える社会的影響が、機械の原理による労働者の統制にあることを解明した。加えて、これがテイラー主義・フォーディズムにおいて合理化の重要な構成要素として採用されていることも確認した。この統制における機械の原理の特徴は、労働者の〈主体〉ではなく〈身体〉に直接働きかけるというところにあるが、この点で、機械の原理の解明には、フーコー的な「主体化/従属化」とは異なる理論的地平が求められることになる。本研究は、この従来とは異なる権力分析の理論的枠組み得るために、アクターネットワーク理論を参照した。身体を司る内的審級としての個々人の〈主体〉に呼びかけるのでなく、物理的環境を通じて直接に身体の動作を規定する機械の原理を、アクターネットワーク理論の論じる主体の間客体的な脱中心化の文脈において分析した。 以上の研究を通じて、研究計画にある身体と空間の機能的関係を構築する社会的原理の解明を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、身体と社会的環境との間の関係、とりわけ機能的な関係を明らかにし、そこに働いている社会的‐空間的原理を解明することを目的としている。 この目的のもと、本年度は、とくに労働環境の機械化の事例を通じて、身体と物理的に構築された社会的環境の間の関係を研究し、そこに働いている原理の解明を目指したが、これは十分に達成できたと考える。以上の点から、研究はおおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度、および本年度の研究を通じて、身体と環境の間の機能的関係の分析と、その関係の社会的構築における原理の解明を行ってきた。そのなかでミクロのレベルにおける分析の枠組みとして「身体制度」の概念を提示し、またそこで働く「標準化」の規範がどのように作用するかを、生産場面における機械の原理を検討することで明らかにしてきた。 今後の研究としては、これらの研究成果をさらに広く都市空間のレベルにまで展開し、その適用可能性を検討する必要がある。方策としては、H・ルフェーブルの空間論やE・W・ソジャのポストモダン地理学、あるいはル・コルビュジエの都市計画論などを検討することで、身体-社会空間を分析するためのより一般的な理論的枠組みの構築を目指すことになる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、参加を予定してた学会で同一日程に重なってしまったものがあり、一方にしか参加できなかったこと、またそれに関連して書籍や資料の購入を一部先送りしたものなどがあったことから未使用額が生じた。また本年度の研究では、必要書籍のうち、大学図書館所蔵の文献で賄うことの可能なものが一定程度あったことも理由の一部となる。
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次年度使用額の使用計画 |
主に物件費および旅費として使う予定である。とく次年度は、本研究の成果をより広い空間領域に展開するために、哲学に加えて、人間工学から人文地理学、建築学、都市計画論などにまで至る複数の分野の研究成果を渉猟する必要があるため、これらに関する書籍・資料購入、情報収集のために使用される。
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