研究課題
申請者は、がん発生の超初期段階には「正常上皮細胞による抗腫瘍作用(EDAC: Epithelial Defense Against Cancer)」という新しいタイプの生体防御機構が働いていることを世界で初めて報告した (Kajita et al., 2014 Nat. Commun.)。本申請では、EDAC に中心的な役割を果たすFilaminを制御する分子の探索により、EDAC現象を分子レベルで解明することを目的とした。実際の分子の探索はSILAC (Stable Isotope Labeling by Amino acids in Cell culture) 法を用いた網羅的かつ定量的な解析法を用いた。その結果、正常細胞と癌原性変異細胞の混合培養時特異的にFilaminとの結合量が2倍以上に増加する分子を複数同定することに成功した。一方、先の報告によりRho-Rho kinase経路がFilaminの上流で作用してEDAC を制御していることがわかっていたが、どのようにRho-Rho kinase経路が制御されているのかは不明であった。今回、脂質メディエーターであるS1P (sphingoshine-1-phosphate) が、癌原性変異細胞に隣接する正常細胞側のS1P受容体であるS1PR2に作用し、その下流でRho-Rho kinaseを活性化することによってFilamin を制御していることを明らかにした(Yamamoto et al., 2016 Mol. Biol. Cell) 。正常上皮細胞内または癌原性変異細胞内におけるS1Pの産生を阻害してもEDAC現象は抑えられないことから、exogenousなS1Pが作用していることもわかった。この結果により、生体内では、S1Pの局所的な濃度の違いによってEDACの誘導頻度が影響を受けることが示唆された。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件)
Molecular Biology of the Cell
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