研究課題/領域番号 |
26870008
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
中島 祐 北海道大学, 先端生命科学研究科(研究院), 助教 (80574350)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ゴム / エラストマー / タフネス / ダブルネットワーク / 犠牲結合 / 高強度 |
研究実績の概要 |
本研究では、ゲルの普遍的な高強度化手法であるダブルネットワーク化により、エラストマー(ゴム)の高強度化・高靱性化を目指す。 本年度は、脆い第1網目としてポリアクリル酸ステアリル(PSA)またはポリメタクリル酸メチル(PMMA)、柔軟な第2網目としてポリアクリル酸エチル(PEA)を用いた系を検討した。最初に、化学架橋密度が大きなPSAまたはPMMAを合成した。次に、これらの第1網目架橋体をアクリル酸エチル(PEAの原料、液状)に浸漬させ、大きく膨潤させた。最後に、第1網目存在下で第2網目を重合することにより、二重網目構造を有するダブルネットワーク(DN)エラストマーを得た。PEA単体の引張破断強度は2MPa程度である一方、PSA DNエラストマーは5MPa、PMMA DNエラストマーは32MPaという極めて高い強度を記録した。特に後者の値は、従来の高強度ゴムであるフィラー強化ゴムを超える値である。これらエラストマーに対してサイクル引張試験を実施したところ、DNエラストマーの延伸時には可逆および不可逆のエネルギー散逸が起こり、これらが本材料の破断に要するエネルギーを大きく向上させていることが分かった。このうち不可逆成分は、第1網目の脆い網目の破断に対応すると考えられる。これはダブルネットワークゲルの高強度化メカニズムと同一である。一方、可逆成分の方は、合成時に生じるミクロ相分離によって、第1網目の高分子同士の凝集という物理架橋(粘性)の効果と推察される。このことは、動的粘弾性などからも確かめられている。 以上をまとめると、DNエラストマーは「脆い網目の破壊」という従来からのメカニズムに加え、「物理架橋の破壊」という新たなメカニズムという、2重のメカニズムで高強度化・高靱性化していることが分かった。現在論文投稿を準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、ダブルネットワークエラストマーを得ることが出来た。本エラストマーの強度は32MPaと、従来の高強度エラストマーを超える値が得られた。また、その高強度化メカニズムについても理解が進んできている。以上のことから、順調に進展していると言うことが出来る。
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今後の研究の推進方策 |
現在までに得られた高強度DNエラストマーは、高い粘性を有するため、変形に際し大きなエネルギーロスが生じてしまう。これは、脆い第1網目が高いTgを有する、または結晶性高分子であるため、第1網目同士の相互作用が大きいことが原因である。そこで、Tgが低い高分子を第1網目に用いることで、純粋にゴム弾性を示すDNエラストマーを作製する。このような高強度エラストマーが得られれば、タイヤなどに用いた際に、エネルギーロスが極めて小さい材料として、省エネに貢献できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
以下に示す、年度をまたがる学会への参加旅費に使用したが、必要経費の全額を平成27年度分として扱うこととなったため、次年度使用額が生じた。 16th International conference on Deformation, Yield and Fracture of Polymers(3/28~4/2)
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次年度使用額の使用計画 |
既に学会参加の旅費、現地滞在費として使用済である。
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