研究課題/領域番号 |
26870013
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
滝口 良 北海道大学, 文学研究科, 專門研究員 (50706760)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 都市開発 / コミュニティ / ポスト社会主義 / モンゴル / コモンズ |
研究実績の概要 |
社会主義体制崩壊後、モンゴル・ウランバートルでは地方からの遊牧民の流入などにより市街地周辺の居住区(ゲル地区)が急速に拡大している。本研究は、ゲル地区における住民の街路利用や街路に対する意識を調査することで、住民の視点にたったコミュニティ空間の可能性を検討するものである。 本年度においては、政府・国際機関によるゲル地区の都市開発に関する資料調査を行い、近年のウランバートルの開発が従来のトップダウン式のものから住民の意思決定を重視したボトムアップ式のものに移行しつつあることを明らかにした。この際、住民の意思決定に際しては、40戸から80戸程度で構成される「通り」が住民の組織化の単位として考えられていることが明らかになった。さらに、2015年2月25日から2015年3月13日の期間でモンゴル・ウランバートルにおいて現地調査を行った。この期間中、ゲル地区における家庭の土地利用ならびに街路管理に関する聞き取り調査を実施し、社会主義時代のゲル地区においては居住地の共同利用(主に移動式住居を利用した割り込み居住)が相互扶助的に行われていたこと、社会主義体制崩壊後においてはこうした居住地の共同利用の相手が親族に限定されたり、有償化されるなどの変化が現れていることが明らかになった。 また研究発表としては、『環境心理学研究』において、モンゴルの遊牧における固有の共有空間のありかたについての共著論文を発表し、移動に基づく非固定的な境界と柔軟なメンバーシップを特徴とするモンゴルの牧地という共有空間と、政策としてのコミュニティ開発が要請する固定した境界とメンバーシップの理念が大きく異なることを指摘した。モンゴル固有の共有空間に関する以上の理論的検討は、ゲル地区の共有空間としての街路への視角を大きく広げるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はプロジェクトの初年度であるため、主にウランバートルのゲル地区開発の現状の把握と、具体的な調査対象地域の選定ならびに協力者の掘り起こしに努めた。さらに、研究者ならびに開発・政策担当者との研究ネットワークの構築につとめた。 1)本年度にはゲル地区における地域住民の共同井戸の利用実態の調査を予定していたが、アジア開発銀行ならびにウランバートル市行政がすでに一部の地方自治体でこの調査を実施していることが明らかになったため、本計画で予定していた地区を変更し、両組織による共同井戸利用の調査が行われていない地区で改めて協力者を募り、次年度にこれを実施することとした。 2)ゲル地区は、モンゴル固有の都市の居住形態であり、その急速な拡大によって多くの都市問題を抱える地区でありながら、いまだ研究がとぼしい。こうしたゲル地区の研究の基盤となる研究ネットワークを構築するべく、ゲル地区の住宅研究を行っている八尾廣氏(東京工芸大学)をはじめ、建築学、社会心理学の研究者とのミーティングを行った。また、モンゴル・ウランバートルの都市開発に従事する専門家から現在の開発方針についての最新の情報や開発向けの調査資料を得るとともに、今後の本研究への約束を取り付けることができた。
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今後の研究の推進方策 |
1)次年度は、ウランバートルのゲル地区の街路利用に関するインタビューならびにアンケート調査を2箇所で実施する。住民組合ならびに民生委員の協力を得ることで、可能な限り多くのデータを収集し、ゲル地区の街路で行われる相互扶助的な実践とその空間的範囲を明らかにする。これにより、ゲル地区の街路空間を構成する要素を特定する。 2)また、研究代表者を務める「モンゴル・ウランバートルのゲル地区における住まいの変容と継承:都市定住に適応する遊牧の住文化に着目して」(一般財団法人住総研・研究助成)での調査研究の成果をふまえ、住民の流動性と居住地域への愛着という観点から住民の街路に対する意識に注目する。 3)次年度には、ゲル地区の開発と地域の住民組織の活動に関する研究発表を行うことを予定している。ゲル地区の開発はウランバートルにおける喫緊の課題であり、政策的な優先度も高い。本研究は研究者の立場からゲル地区の開発に実践的に参与することをその一つの目的としているため、モンゴル語による研究成果の発表も行いたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度のモンゴル・ウランバートルにおける現地調査の期間が2015年2月25日から2015年3月13日となり、年度末のため調査期間中の旅費としての予算を2015年2月中に執行できず、概算払いとせざるを得なかったため、次年度使用額として繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度には本年度に協力の許可を得た住民組合と協力した参加型調査を実施予定である。このためのデジタルカメラ、GPS機器ならびに調査協力費が必要である。 GISを利用した研究・開発事例についての最新の知見を得るために、資料の収集費用が必要である。 モンゴル・ウランバートルのゲル地区における地域住民ならびに都市開発関連組織へのインタビューを実施するために、渡航費が必要である。
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