本研究は、医学展示の場において女性の身体がいかに表象されてきたのかを歴史的に考察し、日欧比較をおこなうものである。ヨーロッパの調査では、主に「フローレンティン・ヴィーナス」と呼ばれる解剖学用蝋人形を対象とした。 最終年度の2016年度に実施した研究の成果は、次の通りである。前年度までの成果を、第64回北海道社会学会大会で発表した。また、これまでの研究成果の一部を愛媛大学人文学会公開講演会で講演した。海外調査は、イタリアとオーストリアの医学博物館におけるヴィーナスの調査、フランスの医学博物館やドイツの衛生博物館における医学展示の調査、オランダとチェコにおける複製身体の展示についての調査をおこなった。さらに、ヴィーナスの研究をおこなっているオーストラリアの研究者を訪問し、学術的な議論をした。国内調査としては、生人形に関する調査をおこなった。 研究期間全体を通じて実施した研究の成果としては、イタリア、フランス、オーストリアのヴィーナスの調査をおこない、比較検討をした。特に、モンペリエ大学医学部の博物館にある「スピッツナー・コレクション」のヴィーナスに関心を寄せ、ベルギーで開催された展覧会のカタログなど展示の周辺にあるものの分析も進めてきた。日本の医学展示については、日本で初めての秘宝館である元祖国際秘宝館伊勢館に展示されていた医学模型と、医学的要素が以後の秘宝館で除去されていった過程について考察した。秘宝館の歴史から「医学の大衆化」を考察し、やがて医学が専門家のものとなっていった過程にも注目した。 本研究の意義は、医学史、文化資源学、ジェンダー研究を結ぶ学際的研究として、医学展示における女性の身体表象を考察した点にある。日欧比較研究から、医学展示を通して日本文化を考察したり、日本における余暇の社会史を知ることができる重要性も持っている。女性の身体表象に関する研究を今後も継続する。
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