機関投資家の株式保有比率とペイアウト政策の関係性について実証分析を中心に検討を行った。近年、日本市場における機関投資家の保有割合が上昇しており、それによって日本企業の財務戦略がどのように変化して来たのかは財務戦略を検討する上で重要なテーマである。分析では、機関投資家の種別によって、企業のペイアウトに対しての選好がどのように異なるのか、またそれに応じて企業はペイアウト戦略をどのように呼応しているのかを分析、検証した。仮説としては、おもに顧客効果の視点で実施した。これは、投資家によって配当や自社株買いに対しての選好度合いが異なり、それに呼応する形で経営者がペイアウトを実施しているとするのが顧客効果仮説(clientele仮説)である。 結果は以下の2点にまとめられる。まず、機関投資家を国内系、海外系に分けると、海外機関投資家の持分割合が高い企業では配当に積極的であり、国内機関投資家の持分割合が高い企業では自社株買いに積極的である。2点目は、機関投資家の投資ホライズンが企業のペイアウト政策に影響を与えている可能性を見出したことである。具体的には投資ホライズンの長い(短い)機関投資家の保有割合が高い企業では配当(自社株買い)に積極的となる。これらは、自社株買いにおける逆選択問題と希薄化コストを敬遠する株主の意向を企業側が汲んだ顧客効果による結果だと示唆される。 一方、機関投資家による企業統治の役割とその中においてペイアウトがどのように影響するのか、しないのかの研究も実施した。まず機関投資家の保有割合と配当への積極度合いの関係性を分析した。結果は、機関投資家の株式保有割合は配当利回りとはマイナスの関係にあることがわかり、銘柄の選択基準としてのペイアウトの重要性はさほど高くない。また、ガバナンスの規律づけとしてのペイアウトの活用も認められなかった。
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