熱帯熱マラリア原虫Plasmodium falciparumは,その感染標的である赤血球内に,独自のタンパク質輸送系である“マウレル裂”を構築する.マウレル裂は,原虫由来病原性決定因子であるPfEMP1の赤血球表面への輸送を担う.PfEMP1は,原虫感染赤血球膜表面へ輸送,提示され,そこで,血管内皮細胞レセプター(CD36等)と結合し,感染赤血球の血管内皮細胞への接着を促す.この接着により血流が阻害されると,昏睡や流産等の重症化につながる.このように,マウレル裂による赤血球内タンパク質輸送は,ヒトにおけるマラリア重症化と密接に関与している. SBP1(Skeleton Binding Protein 1)は,マウレル裂に局在する原虫由来輸送タンパク質である.マウレル裂において,PfEMP1と結合し,PfEMP1の赤血球膜表面への輸送を担うだけでなく,赤血球骨格を構成するspectrinと結合し,赤血球膜表面におけるPfEMP1の構造安定化に関与する.しかし,SBP1とその他の相互作用因子については不明な点が多い. 本研究では,代表者らが考案した"non-biased high-resolution proteomic approach"を用いて,上述のSBP1を標的とした高解像度インタラクトームマップを構築し,同定された因子について,緑色蛍光タグを付加した局在分析,及び遺伝子ノックアウト原虫を用いた機能解析を行うことにより,①SBP1のマウレル裂への輸送に関与する原虫因子の同定,②赤血球細胞質,及びマウレル裂へと輸送される4種の新規原虫因子の同定,及び,③マウレル裂構造の形成・維持に関与する新規原虫・宿主因子の同定に成功した. 本研究の成果は,熱帯熱マラリア原虫による重症化機構解明のための一助となるだけでなく,重症化阻害薬開発のための基盤となることが期待される.
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