本年度はTet-Offシステムを用いた腫瘍関連遺伝子の制御について検討した。Tet-Offシステムは、Doxycyclin非存在下に遺伝子が発現し、Doxycyclin存在下に遺伝子発現が不活性化する遺伝子発現制御システムである。myristoylated AKT (AKT)とYAPS127A (YAP)をマウス肝細胞に導入し肝細胞から胆管癌を誘導するモデルにて、YAP遺伝子発現をTet-Offシステムで制御することを試みた。はじめにプラスミドの比を本研究室で通常用いているSBトランスポゼース発現プラスミド1に対し、AKT及びTet-OFF-YAPをそれぞれ2のモル比で導入した。結果、コントロールとして用いたAKT/YAPに比べて、AKT/Tet-Off-YAPでは腫瘍形成期間が大幅に遅れ、また、組織学的にも肝細胞腫瘍が主で胆管癌への転換効率が非常に低かった。YAPの発現が不十分と考えて次に、AKTとTet-OFF-YAPのプラスミドのモル比をSBとランスポゼース発現ベクター1に対しそれぞれ2:2、2:4、1:4及び0.5:2とプラスミドの比を変えて導入してみた。結果、いずれのプラスミド比においてもAKT/Tet-Off-YAPは、AKT/YAPに比べ腫瘍形成期間が長く、胆管癌への転換効率も低かった。形成された腫瘍におけるAKT及びYAPの遺伝子発現をRT-qPCRで検討したところ、AKT/YAP腫瘍での遺伝子発現に比べていずれのプラスミド比のAKT/Tet-Off-YAPにおいても、YAPのみならずAKTの発現低下が見られ、これが腫瘍形成効率低下の原因と判明した。今回の検討では、実際の実験に使用できるプラスミドの至適導入条件を見つけることができなかったので、今後はTetシステムの遺伝子を発現するマウスを用いる等の更なる検討を続ける。
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