研究課題/領域番号 |
26870030
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
久保田 健 弘前大学, 北日本新エネルギー研究所, 准教授 (70400405)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | マルチフェロイック材料 / 複合材料 / 磁歪材料 / 電歪材料 / 磁気センサ / 磁界発電 / 非平衡相 / 組織制御 |
研究実績の概要 |
強誘電体としてPZTを、強磁性(高磁歪)体としてFeSiBPアモルファス薄帯を複合したマルチフェロイック素子を磁気センサあるいは環境発電(磁界発電)デバイスとして実用に資するまでに出力向上させることを目的に、1)肉厚なFeSiBPアモルファス合金薄帯の作製、2)FeSiBP合金薄帯そのものの飽和磁歪量と磁歪感受率の検討、3)相関の伝達応力を増大させる積層技術の検証、これら3項を実施した。 項目1)について、肉厚なFeSiBP合金薄帯アモルファス単相材の作製は、薄帯作製時に使用する液体急冷装置の凝固ロールを大径化すること、ロール回転数と合金溶湯噴射ノズルの角度とギャップ、および噴射圧を微調整によって、前年度までに達成した130μm厚を超える約170μm厚までを達成した。ただし150μm以上の肉厚化は、低回転に起因した薄帯の遠心力剥離がなされないため長手方向に湾曲した形状となること、熱分析結果からは140μm厚を超えたあたりでアモルファス相が結晶化する際の熱分析曲線が変化することから130μm以下の厚み材と凍結されているアモルファス相の初期状態が異なることを確認した。 項目2)について、20μm厚のFeSiBPアモルファス磁歪合金薄帯を試料として用いて種々の熱処理を施したところ、素子動作方向への飽和磁歪量は急冷直後のものと比して約1.4倍まで向上することを確認するとともに、この現象は熱処理によってアモルファス組織中に不均質に析出、傾斜分布した結晶相に起因する可能性を見出した。これにより、複合素子としての発電出力が向上することまでを確認した。 項目3)について、接合剤として半田を用いた積層を試み、従来の樹脂系剤の場合と同程度の厚みで素子化できるプロセスを確立、強固な接合法で作製した素子の性能評価実験を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
FeSiBP合金磁歪薄帯の肉厚化検証については、素材のポテンシャル限界付近までの肉厚化に成功している。これ以上の肉厚化も装置変更によって可能と考えるが、肉厚化による磁界応答性の低下や、湾曲した板材形状となるために生じる素子化困難性、ルーチンの一貫であるアモルファス相の初期凍結構造に差異が生じる点を複合的に考えれば、肉厚化研究については本テーマで目指すゴールに到達したと思われる。 肉厚な磁歪薄帯の磁界応答性を改善するために実施した熱処理による磁歪薄帯の特性最適化実験では、結晶化直前温度域での長時間熱処理によって飽和磁歪量を維持したまま磁界応答性が改善することを見出し、なおかつ系統的な実験の中から飽和磁歪量が向上する処理条件にたどり着いたこと、結果的に素子の出力と応答性が顕著に向上したことが特筆する成果として挙げられる。これは熱処理で析出した微結晶が磁歪薄帯の表面近傍にあることに由来しているとみられ、20μmや54μmの薄めの薄帯で効果が目覚しい反面、82μmや109μmの厚めの薄帯では同一性格の組織を形成しても飽和磁歪量の向上はわずかであった。肉厚な磁歪薄帯においても飽和磁歪量を増強することは本研究において複合素子の性能を向上する上で不可欠であるため、飽和磁歪量が変化する機構を明確にし、制御できる技術とする必要がある。 積層技術については昨年来の課題としていた低融点合金による接合技術を確立したことは成果といえる一方で、圧電層PZTと強固に接合されることで素子化後の磁歪層アモルファス薄帯の飽和磁歪量はやや低下し、磁界応答性は緩慢化することを確認した。肉厚な磁歪層試料を用いることで磁歪変形量は増加する傾向を示すが、肉厚化に伴なう磁場応答性の劣化とトレードオフの関係にあるため、最適な磁歪層厚みの決定もしくは素子の構成設計に課題が残った。
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今後の研究の推進方策 |
肉薄FeSiBPアモルファス磁歪薄帯の飽和磁歪量が増加する原因については、透過型電子顕微鏡観察の結果から、部分結晶化の影響を受けて薄帯内の磁区構造が変化したことによると推察しており、これを明らかにするとともに、肉厚薄帯においても飽和磁歪量の向上を目指す。なお、Fe基アモルファス薄帯における熱処理下の結晶析出形態変化については種々の熱処理条件効果と組成効果として報告例が見られるため、これを参考にしつつ研究協力者との協議を交えながら研究を遂行する。 磁歪材と電歪材の強固な接合法として2~3の合金接合を試したものの、厚みのある電歪材の機械強度に対して肉薄な磁歪材では変形出力が小さく、磁歪変形が阻害されていることが理解できているので、磁歪材を肉厚化した際の出力観点での厚み決定を目指す。同時に、電歪材をポリプロピレン(エレクトレット)にする回帰的な研究も検討し、磁歪-電歪型マルチフェロイック素子の性能向上化研究をまとめ、達成した性能を指標としてデバイス応用展開についても調査する。 なお、肉厚なFeSiBPアモルファス磁歪薄帯の製造技術は確立したとの認識に至っているため、当年は実施しない。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度において、消耗品の計画的調達に注力し、旅費を削減したこともあり、当該年度は消耗品の額に対する旅費の額比率が高くなった。 年度終盤には試料熱処理用消耗品や磁界発生用電源のいずれかの調達を計画していたが、年度内に納品されないとの情報により、36,315円を翌年に繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度分繰越額:36,315円を含めた平成28年度助成金の使途について、従来計画とほとんど変更はない。 消耗品として調達予定の電歪材は、これまでと同様にPZT、さらにポリプロピレンを考えているが計画を再度練り直すほどに高額となる見込みはない。多様な測定データを取るために磁界発生装置の改良を計画しているが、こちらも10万円前後の見込みであって計画に支障をきたすとは考えていない。 旅費については成果を広く公開する目的、ならびい多方面の識者から情報を入手し討論する目的で2~3回を計画しており、その他についてはルーチン化した実験である試料作製と熱処理作業で謝金を計画している。
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