研究実績の概要 |
変形性関節症(OA)と非OAの大腿骨頭から関節軟骨を採取し、その軟骨細胞から純度の高いRNAを抽出した。OA 9症例と非OA 6症例由来のRNAを、遺伝子発現解析チップ3D-Gene(東レ)を用いて網羅的に遺伝子発現解析を行い、2群間の比較解析を行った。解析した全24,460遺伝子中、非OA群と比較してOA群で917遺伝子で発現亢進が、773遺伝子で発現低下がみられた。以前申請者が英国で欧米人検体から得たデータと異なり、日本人ではOAでのIL1Bの発現亢進はなかった。 さらにOA検体と非OA検体のクラスター解析を、総当り式に計54通り(9x6検体)の組み合わせで行った。その結果、54通り全てにおいてOAで発現が亢進していたものは116遺伝子、低下したものが36遺伝子あった。また日本人で以前報告されたOA関連3遺伝子を含む48遺伝子から成るクラスターを解析すると、うち19遺伝子は未報告のOA関連遺伝子であることが示唆された。 過去にOA関連遺伝子と報告されたものは、日本人で3遺伝子、欧米人で50遺伝子ある。本研究では、日本人の上記3遺伝子全てで2群間での発現量に有意差がみられた。一方欧米人のOA関連50遺伝子のうち、2群間で発現に有意差があったものはわずか16遺伝子であった。OA軟骨細胞での遺伝子発現パターンは、日本人と欧米人で異なる可能性が示唆された。日本人と欧米人でのOA軟骨細胞における形質の違いを比較した報告は過去になく、重要な知見である。 一方本研究で使用した日本人OA検体では、欧米人同様にMMP13の発現が亢進していた。その発現調節に関わり、かつプロモーター領域のDNAメチル化によりその機能が変化する可能性がある転写因子を網羅的に解析した。その結果、OAで発現が亢進する転写因子としてFOSとLEF1が、低下する転写因子としてCREB3L4が同定された。今後、その機能解析を進める必要がある。
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