研究課題/領域番号 |
26870035
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
伊藤 直樹 東京大学, 農学生命科学研究科, 准教授 (30502736)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | マガキの卵巣肥大症 / 卵母細胞形成 / 宿主コントロール / 原虫 |
研究実績の概要 |
マガキ卵巣が非生殖期にも肥大する卵巣肥大症は原生動物寄生虫の感染が原因であるとされるが、その生理学的メカニズムは不明である。この点を明らかにすることを目指す本研究課題では、今年度は二つのアプローチを試みた。 一つ目は卵母細胞形成促進物質の同定であり、そのためのスクリーニング法の開発を試みた。手法として、原因寄生虫感染と卵巣肥大症状が確認できた個体の卵巣患部組織を切り出し、水溶性成分と難水溶性成分の抽出を行った。そして、原虫無感染を確認したマガキの卵巣組織片に各抽出成分を添加し培養を行い、培養期間終了後に組織切片観察を行い卵母細胞形成の有無を判断した。しかし、水溶性、難水溶性の両画分においても、卵母細胞形成の亢進を組織切片で確認することはできず、スクリーニング法は確立できなかった。 二つ目のアプローチとして、卵巣形成患部で起きている現象の理解を発現遺伝子の観点より理解することを試みた。まず、卵形成が亢進している原虫感染組織をホルマリン固定し凍結ブロックを作成、薄切切片を作成した。レーザーマイクロダイセクション法を用い、活発な卵形成が観察されたろ胞上皮組織を切り出し、直ちにRNA抽出を行った。抽出RNAをIllumina Hiseq 2000によって網羅的にシーケンスしたところ約1億リードが得られ、一次的な解析では約33万のcontigと約14万のunigeneを含まれると見込まれる。機能が推定されたcontigは約6万で、その8割程度は宿主であるマガキ由来の配列であったが、残り2割程度は宿主以外の生物由来の配列である。従って、原因寄生虫が発現している遺伝子も含まれている可能性が高く、卵形成が促進される現象解明に有用と考えられる一時データが集積できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
卵母細胞形成を促進する物質をスクリーニングするためには、卵母細胞が形成されるろ胞上皮細胞組織のみを長期間培養することが望ましい。しかし、これまでにそのような手法は開発されておらず、本研究では二枚貝の卵巣を用いることを試みた。しかし、明瞭な結果は得ることができなかった。これは卵巣を長期間の維持できないことが主な理由と考えられる。 一方、患部における発現遺伝子群の網羅的解析は、以前、SSH法で行ったときよりも圧倒的に多いデータ量が得られた。内容については現在解析中であるが、興味深いライブラリーを構築できそうに思われ、この方向性に関しては計画2年目に向けて概ね順調と言える。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画二年目は、感染および未感染個体の卵巣における発現遺伝子群を解析することを予定している。この結果を、本年度のライブラリーと組み合わせて比較・解析し、発症患部で特異的に発現する遺伝子および発現量の増加する遺伝子を特定することを第一目標とする。関心の高い遺伝子に関しては発症段階ごとに発現量を定量的に測定し、メカニズム解明を試みる。 また、一年目に確立できなかった卵母細胞促進物質のスクリーニング法については、手法の確立は本研究課題にとって大きな進展になるため引き続き行う。検討する項目として、生殖巣の取扱がより容易なホタテガイ生殖腺を用いる、組織に添加する患部抽出液を増量するなどを考えている。スクリーニング法が確立され次第、精製を試み物質の同定を試みる予定である。
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