研究年度2年目の平成27年度は、引き続き寄生虫Marteilioides chungmuensisによる宿主マガキの卵母形成促進因子の探索研究を行った。まず、前年度に実施した感染個体の卵巣上皮のトランスクリプトーム解析結果について精査したところ、宿主以外の生物由来の遺伝子群が多数検出された。中には細胞増殖因子ホモログ等も見られ、病巣で特異的に発現することで疾病と関連付けられるものもみられた。次に、感染卵巣と非感染卵巣よりRNAを抽出してトランスクリプトーム解析を行い、発現遺伝子比較を実施した。その結果、感染卵巣で特異的に発現が増加する遺伝子群をリストアップすることに成功した。概ね宿主マガキ由来の遺伝子であるが、中には原虫由来のものも見られたことから、卵巣肥大症に特徴的な宿主の異常な卵母細胞形成を寄生虫が促進するための因子である可能性が高いと考えている。現在、原因寄生虫M. chungmuensisのゲノム解析を行っており、寄生虫由来因子であることの確認作業を実施している。 その他、通常のマガキ卵成熟で発現量が増加する遺伝子のいくつかが、感染卵巣では増加しないことがわかってきた。このことから、卵巣肥大症でみられる卵母細胞形成は通常のカスケードで起こるものではなく、カスケードの途中から始まることが強く示唆され、二枚貝の卵成熟、卵母細胞形成の解明につながる結果が得られた。 一方、感染卵巣中の卵母細胞形成促進因子を探索するため、感染卵巣抽出物をex vivo条件で二枚貝卵巣組織に添加し、卵形成への影響評価を試みたが、明確な結果を得ることはできなかった。抽出法の改良、もしくは評価に供する二枚貝卵巣組織の発達段階について、今後も検討を行う必要があると考えられる。
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