研究課題/領域番号 |
26870037
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
金 賢貞 東北大学, 東北アジア研究センター, 助教 (20638853)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 韓国 / 日本植民地時代 / 九龍浦 / 敵産家屋 / 資源化 / 観光 / ツーリズム / まちづくり |
研究実績の概要 |
研究計画調書に記載した平成27年度の計画のうち、研究費の減額に鑑み、最初に計画した「九龍浦豊漁祭」「九龍浦馬牧長城祝祭」の調査は実施していない。しかし、2本立ての研究計画は順調に行われた。まず、「九龍浦近代文化歴史通り」の観光資源化の実態と観光者の観光経験に関するミクロな調査研究である。観光資源化の背景、目的、プロセス、住民参加のあり方、外部事業者の係わりと副作用、ナショナリズムとの関係などを、文献資料の収集や現地住民へのインタビュー、参与観察を通して明らかにした。さらに、30人以上の観光者に詳しいインタビューを実施し、植民地時代の日本式建築物の観光資源化に関する認識や、観光動機、評価などについて口述資料を集め、データ化できた。しかし、「観光文化解説士」という官主導の教育を受けた観光市民ボランティアの活動についてはインフォーマントの都合が付かなかったことが多く、その実践や語りについて詳細に調べることができなかった。次に、自発的社会集団としての「九龍浦未来社会研究所」の活動やあり方について関係資料の収集、関係者へのインタビューに成功していることである。文化・観光政策が官主導で実施・運営・管理されやすい韓国において地方社会の市民組織がどのように立ち上げられ、運営されるのか、また、その目的をどこに据えているのかを、現地住民自らによる郷土認識の形成や変化からアプローチできるデータをある程度確保した。他には、九龍浦と水産資源の管理と運用の問題に気づき、その調査を始めている。もともと計画していた研究ではないため、「九龍浦クァメギ研究センター」が設立される(予定の)平成28年度に延長して調査を継続するつもりである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要で述べた(1)「九龍浦近代文化歴史通り」の観光資源化の実態と観光者の観光経験に関するミクロな調査研究、(2)自発的社会集団としての「九龍浦未来社会研究所」の活動やあり方に関する各種文献資料の収集、関係者へのインタビューは、最初の計画どおりに順調に進んでいる。しかし、観光市民ボランティアの「文化観光解説士」の語りや実践に関する調査はインフォーマント確保に問題が生じたことから、遅延が発生している。さらに、九龍浦と水産資源の管理と運用に関する調査研究は新たに浮上した調査研究課題であり、次年度に延長して実施する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度には、(1)観光市民ボランティアの「文化観光解説士」の語りや実践に関する調査研究と、(2)九龍浦と水産資源の管理と運用に関する調査研究を、平成27年度から続けておこなう。さらに、本研究課題の最終年度であることに鑑み、(3)平成26年度から平成28年度にかけて収集した文献、口述、画像、動画資料などを体系的にまとめる。その上で、(4)日本民俗学会や文化人類学会などにおいて口頭プレゼンテーションをおこないつつ、論文としてまとめ上げ、本研究成果を関係学界や社会に発信する準備に取り組む予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(1)浦項市内には現在20人以上の「文化観光解説士」(市民ボランティア)が活動している。この人々は実際浦項市ではなく、慶尚北道で随時募集・教育・派遣しているため、教育の内容などを把握することが容易では難しい。さらに、文化観光解説士になった動機などについての聞き取り調査はプライベートなところまで聞き出すことになるので、なかなかインフォーマントから調査許諾を取りづらかった。(2)九龍浦における日本植民地時代の建築物の観光資源化の背景には水産資源の枯渇と漁業人口の激減が伏在していたことが平成27年度の調査途中で明らかになった。しかし、当該年度に調査をまとめることが調査日程上困難であった。
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次年度使用額の使用計画 |
以上の理由から平成28年度に調査研究を延期している。(1)については非常に積極的なインフォーマントを確保できたため、その人を中心に別のインフォーマントを確保していく予定である。(2)については九龍浦クァメギ研究センターができれば、関連資料の収集や関係者に対する有効なインタビューがよりおこないやすくなると予測している。当該研究センターの設立前後に継続して調査を実施していく予定である。
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備考 |
以上の記事は「東北アジア学術交流懇話会」発行のニューズレター『うしとら』第68号に掲載されている。
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