当初予定していた「平成28年度の研究実施計画」はほぼ計画どおりに行われた。まず、九龍浦邑自治センターと浦項市平生学習センターで浦項市における生涯学習の変遷、現状、課題について調べた。次に、平成27年度に続き、観光市民ボランティアの「文化観光解説士」の「解説」やライフヒストリーを収集した。現在、「九龍浦近代文化歴史通り」で活動している文化観光解説士は、韓国のナショナル・レベルにおける観光振興政策の一環として養成されており、その教育を慶尚北道が担当している。もともと地元の歴史や文化を住民自らが外部の観光客に紹介するという趣旨で始められたが、実際は観光客と同じ外部の人が行政によって委託を受けた教育機関から画一的な教育を受けて活動している現状などが明らかになった。それから、九龍浦の水産資源の管理と運用というパースペクティブから「浦項九龍浦クァメギ文化館」の設立の目的や展示内容について調べた。3年間の本研究を通して明らかにした成果や意義は次のようにまとめられる。第一に、日本人移住漁村が形成された韓国九龍浦の近代史の解明である。第二に、韓国の地域社会に存在する様々な社会集団がどのようなネットワークを形成し、地域的アイデンティティを求める諸活動を行っているか明らかにできた。第三に、韓国の反日ナショナリズムとかかわりがあるとされる日本植民地期の建造物を観光資源化する実践が具体的にどのように展開されているか、どのようなアクターがかかわっているか、観光客の観光目的や観光のあり方、地域住民と観光客の間のインタラクション、観光開発における行政などの関与、地域社会への影響や課題などを明らかにすることができた。本研究は、韓国の地方社会における社会関係資本が従来見られなかった異質な地域開発によっていかに変化していくのかを究明する上で極めて有効な事例研究になったと評価できる。
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