研究課題/領域番号 |
26870040
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
千葉 宏毅 北里大学, 医学部, 助教 (90713587)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | エンドオブライフ・ケア / 末期がん / 訪問看護師 / ケアマネジャー / 情報的支援 / 発話 / 定性研究 / 混合研究 |
研究実績の概要 |
優先的に進めてきた訪問看護師、ケアマネジャーの定性研究において、看護師2名(5症例)、ケアマネジャー2名(4症例)についてデータ収集できた。全て自宅での看取りとなった症例であり、初診訪問から看取りまでの間、訪問看護師では平均6.8回(最多17回、最少3回)の訪問、ケアマネジャーでは平均3.5回(最多5回、最少1回)の訪問の録音データであった。Qualitative Data Analysis(cote 1993)を用いて分析した結果、熟練した訪問看護師の訪問中の情報的支援や説明内容は、「症状に対する看護ケア」、「各専門職の支援体制」、「医療保険の負担」、「介護サービスの項目」、「家族によるケア方法と指導」、「家族介護の負担軽減」、「本人・家族の生活目標」、「看取りの覚悟と準備」の8項目の情報であった。また熟練したケアマネジャーの情報的支援内容は「必要な福祉用具の確認と手配」、「緊急連絡先の確認と対応」、「利用可能な介護保険サービスとその負担」、「関わる専門職の役割と今後の見通し」、「家族の介護負担の確認と調整」、「介護認定と利用可能なサービス」、「療養住環境のセッティング」の7項目であった。特に訪問看護師は初回の訪問に近い段階から、本人・家族がどう生活したいかを確認し、看取りの覚悟に関する話までを行うことで、家族の気持ちをまとめるような関わり方を行っていることが分かった。本結果は現在収集中のデータをさらに追加することでカテゴリーの表現が変化する可能性がある。 混合研究の方では、訪問看護師で1症例、ケアマネジャーで1症例を収集した。これらのデータは、定性研究で仮説生成したカテゴリーをもとにコーディングルールを作成し、内容分析を中心とした計量テキスト分析を行う。本人・家族の意向や実際の看取り場所等のデータを変数とし、情報のカテゴリーについて数量的な比較を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
定性研究、混合研究とも、研究協力者(被験者)が、所属していた部署からの配置変換があり直接療養者と関わることがなくなったり、それまでの事業所を退職し新規事業所を立ち上げるなど、予測外の出来事が頻出しており、データ収集に遅延が生じている。定性分析に関わるデータ収集が予定症例数よりも少ないため、内容の質を担保するため研究協力者へフォローアップインタビューを行ない始めたところである。またこのようなケースに関して大学倫理委員会へ変更届出を行い、その承認を得てから調査を行ったため、全体的にデータ収集の遅延が生じていいる状況である。 混合研究に関するデータ収集も、予定よりも少ない状況ではあるが、各協力者へこまめに連絡をとり、調査実施の催促や進捗状況の確認を行いながら進めている。現在すでに収集が完了したデータが2症例、データを取り進めている症例が少なくとも5症例程度ある。遅れながらもデータ収集は現在の進行中であり、今後も新たなデータが追加される見込みはある。 収集した発話データの書き起こしについて、一般的な書き起こし業者にはない技術(沈黙や話者分別、秒単位の統計情報の取得)を有する業者が、業務飽和により委託が困難になっている。委託できないデータについては、市販の書き起こしソフトウェアを活用する。 訪問看護師やケアマネジャーが療養者や家族に対する配慮は極めて細やかで、研究協力の依頼を行うことに対して遠慮や躊躇をしてしまう傾向が強い可能性がある。看護師やケアマネジャーのみの発話録音であることを、療養者本人や家族に対し明確に説明することで、同意が得やすいといったフォローを電話等で行っている。また別の困難要因としては、病院から在宅に復帰した途端に看取りとなってしまう症例も多く、研究協力を依頼する間もないという場合もある。
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今後の研究の推進方策 |
進捗状況に記載したとおり、定性研究において対象看護師やケアマネジャーへのフォローアップインタビューを追加で実施する事にした。これは単に臨床現場で表出した情報や会話だけではなく、訪問看護師やケアマネジャーが家族への情報提供に至る遡及的背景や心的側面を、表出した情報の解釈に加味することで、考察段階で発話や情報提供として現れた意図や意味づけを加えることができるためである。今後すでにデータ収集で協力を得た複数名の訪問看護師やケアマネジャーへ対し、インタビューを実施していく予定であり、現在行っている分析に追加していく。結果については論文化し、日本在宅医学会への投稿を予定している。 混合研究においては、新規に協力可能な訪問看護ステーションや居宅介護支援事業所へ依頼し、できるだけ多くのデータを収集できるよう協力依頼を進めていく予定であるが、本年9月ころを目処に分析作業に取り掛かる予定である。本研究は、ターミナル期における臨床現場の発話(質的データ)が分析の主たる対象であるため、データが一堂に揃う前から分析を進めることが可能である。そのためデータ分析を進めながら、常にデータ収集も進めていく必要があり、同時にできる限り質の高さを担保したデータを多く収集していく方針である。現在データ収集最中の症例が5症例程度あり、さらに新規依頼でデータを追加補強しながら計量テキスト分析を中心に行っていく方針である。混合研究の分析結果については、現時点でGeriatric Gerontology Internationalへの投稿を視野に入れている。
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次年度使用額が生じた理由 |
進捗状況にも報告したとおり、データ収集が遅延している点、そしてそのデータを文字起こしする業者によるデータ入力業務量制限のため、文字起こし業務を委託出来なかった2つの理由がある。他社へ対し、単純な文字起こしだけを委託すると、当該業者の3~5倍の金額になることが見積もりで分かっている。また文字起こし以外の付加情報を組み込んだデータは、他社に委託することができないものであった。委託したい発話データはすでに収集していたため、何度か当該業者へ交渉したが、委託時期を変更せざるを得なくなり、予定していた予算を使用するに至らなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
データ収集は今後も継続していき、同時に文字起こしデータの依頼を当該業者へ継続して行っていく予定である。当該業者の場合、データの納品について時間を要する可能性があるため、次年度は当該業者以外にも、本件の条件に合わせてテキストデータを入力することが可能な新規業者をできるだけ確保し、データ入力が滞らないように進めていく予定である。さらに今後同じような状況が生じることへ対する軽減策の1つとして、市販の文字起こしソフトウェアの活用も行っていく。
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