前年度までに、流れ環境下の血管内皮細胞内歪み分布に相当するタンパク質局在の確認と空間的勾配の有無による内皮細胞のアポトーシス誘導の違いに関する結果を得た。平成28年度は、生体内の環境により近づけるために、時間変動を負荷した流れ負荷培養実験を行うこととした。 従来のせん断応力空間勾配発生用フローチャンバーを改変し、より小流量(従来の20分の1)かつ時間変動(1 Hzの拍動)を負荷可能な新しいフローチャンバーを作製した。新しいフローチャンバーを独自開発の流れ負荷培養実験系に組み込むことで、大流量を必要とする従来のフローチャンバーと比較して、より安定した流れ負荷培養実験を実現した。この流れ負荷培養実験系を用いて時空間変動を伴うせん断流れ環境における細胞応答を観察し、その応答に対する細胞内シグナル伝達機構の解明を試みた。時空間変動を伴う流れ環境においては、高せん断応力環境で血管内皮細胞のアポトーシスが強く誘導されることを明らかにした。また、一様なせん断流れ環境と比較して時空間変動を伴うせん断流れ環境では、アポトーシス誘導に関連するタンパク質複合体NF-kappaBの細胞核内移行状態が長時間維持されることも明らかになった。特定のタンパク質がこのNF-kappaBの核内局在を制御することが示唆された。免疫蛍光染色法により可視化し、顕微鏡観察を行ったが、流れ環境の違いによる特定タンパク質の発現・局在に顕著な変化は認められなかった。
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