平成28年度は、前年度までに蓄積した知見を基に熱間加工により導入された格子欠陥と材料特性の関係について研究を行った。 まず、N添加量の異なるCo-Cr-Mo合金を作製し、熱間加工組織と力学特性との関係について検討した。高周波誘導溶解法により30 kg鋳塊を溶製し、実機設備を用いた熱間鍛造・圧延により0.15 mass%のNを添加したCo-28Cr-6Mo (mass%)合金およびN無添加の比較合金を作製した。引張試験の結果、同じ加工履歴であってもN添加合金の方が高強度を示し、優れた引張延性が得られることがわかった。このような高強度の理由として、熱間加工により導入される転位のN原子による固着が示唆された。また、室温にて応力比R = 0.1の疲労試験を行い、S-N(応力振幅-サイクル数)曲線を作成し、N添加により疲労特性が改善かのうであることを初めて明らかにした。さらに、上記試料について分極試験及び浸漬試験により生体材料として重要な耐食性を評価したところ、熱間加工を行っても耐食性はほとんど低下しないことを確認した。以上より、本研究で提案した高強度化コンセプトである「高密度格子欠陥の導入」の有用性を示すことができた。 本研究により得られた成果を応用し、脊椎固定用ロッドを具体的なアプリケーションとした高強度ロッド材の熱間伸線・圧延プロセスを構築した。φ5mm程度のロッド材を対象に熱間加工温度および熱間加工率の影響を調査し、20%程度の低加工率であっても極めて高い強度が得られることを明らかにした。また、熱間加工温度を制御することにより、格子欠陥の導入と熱間加工中の動的再結晶の発現を最適化することができることを見出した。得られた材料については、生体適合性評価を行い、人体に悪影響を及ぼさないことを確認し、実用的にも重要な知見を得ることができた。
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