研究課題
植物の乾燥環境下における水獲得能は、生存や生産性を左右する。植物の根は水分勾配を感受して高水分側に伸長する『水分屈性』を発現することによって、この乾燥ストレスを回避する能力を有する。申請者は、水分屈性に必須の遺伝子、MIZU-KUSSEI1(MIZ1)を発見した。さらに、最近MIZ1過剰発現体で水分屈性が亢進されることを明らかにし、MIZ1と相互作用する因子の候補を単離することに成功したが、その機能は未だ不明である。そこで本研究では、MIZ1の分子機能を解明する研究を展開し、水分屈性の制御機構を理解することによって、植物が効率的に水分を獲得して生産性を向上させるための分子基盤を構築することを目指す。当該年度は、まずMIZ1の機能する細胞群の同定を進めるために、昨年度(平成26年度)作出した、miz1突然変異体に組織特異的にMIZ1を発現させた形質転換体の継代(T3)を行い、その水分屈性能を検定した。その結果、miz1突然変異体で、野生型MIZ1をある特定の細胞群(組織)に発現させることによって水分屈性を回復させることに成功し、MIZ1の機能領域を絞り込むことができた。次に、マイクロアレイによる遺伝子の網羅的発現解析結果から得られた水分屈性関連候補遺伝子について解析を進めた。リアルタイムRT-PCR法により、発現変動の再現性を得た候補遺伝子もあったが、その機能欠損形質転換体の水分屈性能の検定やその遺伝子関連物質の可視化では、どちらの結果も候補遺伝子と水分屈性の関連性を支持するものではなかった。さらに、MIZ1と相互作用する因子を同定するため、候補遺伝子の機能欠損突然変異体の水分屈性能を解析し、その水分屈性能が低下していることを見出した。
2: おおむね順調に進展している
当該年度は、まず、MIZ1の機能する細胞群を同定するために、昨年度(平成27年度)作出した組織特異的なプロモーターを利用して、MIZ1を発現させる組織を限定した形質転換体や組織特異的に標的遺伝子を発現させるアクティベーションタグラインであるGAL4転換体を使って、水分屈性能を確認し、機能する細胞群を特定する予定であった。組織特異的プロモーターで誘導したMIZ1回復系統の水分屈性能の評価をT3世代で行い、伸長領域の表皮または皮層におけるMIZ1発現が重要であることを明らかにした。GAL4形質転換体についても、伸長領域の表皮等で発現誘導するものを作出したが、これらについては水分屈性能の回復が認められなかった。これらの差異については、GAL4形質転換系統で、MIZ1に融合したマーカー(amcyan1)の影響が考えられた。さらに、申請者は、MIZ1の活性化により発現変動が生じる遺伝子群を特定し、MIZ1の分子機能を推測するために、野生型に加え、miz1-1水分屈性欠損突然変異体とMIZ1過剰発現体の間で、根に水分勾配刺激を与えたときと与えないときの根端を用いてマイクロアレイを行った。そして、そのデータから得られた複数の候補遺伝子について、昨年度に引き続き、リアルタイムRT-PCR法により発現の再現性を得られた遺伝子について、機能欠損変異体の形質評価およびその遺伝子関連の生産物質の可視化によって比較解析を行ったが、水分屈性との関連を見出せなかった。そこで、さらにマイクロアレイデータの解析に戻り、再解析を行っている。また、MIZ1と相互作用する因子の同定については、相互作用の確認まで至っていないが、候補遺伝子の突然変異体の水分屈性能の検証や機能を阻害する薬剤を使った検証でポジティブな結果を得ることができたことから、総合的にはおおむね順調に進展していると自己評価した。
今後の研究の推進方策は、基本的に計画書通りに進める。水分屈性制御因子MIZ1の機能する細胞群を組織特異的プロモーター-MIZ1系統により同定できたことから、GAL4を用いた解析は中断し、MIZ1と相互作用する因子の同定を進める。とくに、相互作用の検証を迅速に進め、免疫沈降法の結果の再現をとる。これらの再現性を得られた因子について、マーカーで可視化できる系統を取り寄せるか作出する。そして、組織特異的プロモーター-MIZ1系統の中で水分屈性を回復する系統、部分的に回復する系統、回復しない系統と交配して、MIZ1およびMIZ1と相互作用する因子の細胞内局在を解析する。また、水分屈性に必須な遺伝子であるMIZ2との関連も解析する。さらに、MIZ1依存的に発現変動する遺伝子(群)を見出すために行ったマイクロアレイについて再解析を進めて、MIZ1の発現量が異なることで誘導または抑制されている個々の遺伝子だけではなく、関連するシグナル伝達経路を見出すことを目指す。同定できた遺伝子については、その機能欠損変異体の水分屈性能の解析やこれまで明らかにされている水分屈性制御因子との関連性を明らかにする。さらに、マーカーによる可視化、そしてMIZ1-GFPやMIZ2-GFPと合わせた局在解析を行う。これらの結果を得ることで、MIZ1を中心とした水分屈性発現制御に関わる因子の分子レベルのネットワークを明らかにできると考える。
当該年度は、作出した形質転換体の特性解析を行い、系統維持のために平成26年度に引き続き植物の栽培を行った。また作出した形質転換体の特性解析の結果を学会で発表した。当該年度中に論文投稿まで行う計画で、英文校閲や論文投稿料を確保していたが、それが平成28年度にずれ込んだために、使用額が予定より少額となった。
まず、当該年度で行う予定であった論文発表のための英文校閲や論文投稿料として使用する。そして、関連遺伝子の解析のために必要な薬剤や分子生物学的実験を遂行するためにも使用する。さらに、その成果を発表するための旅費や、次の論文発表のために予算を使用する計画である。
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Physiologia Plantarum
巻: 157 ページ: 108-118
10.1111/ppl.12406